錯字・音字換入:単語の文字をほかの文字にとりかえる
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関連レトリック錯字・音字換入

錯字・音字換入 さくじ・おんじかんにゅう paragram

  • 定義重要度quote
  • 錯字・音字換入は、単語のなかの文字を取りだして、ほかの文字にとりかえるレトリックです。

  • 効果

  • 効果1ふざけたり、軽べつしたりすることをあらわす

  • 「錯字・音字換入」は、もとからあることばの文字を1つ、入れかえるレトリックです。なので、「しゃれ」「駄洒落」と同じような役割をするものだといえます。そのため、指ししめしているものをバカにしたような言いまわしになることがあります。
  • キーワード:冗談、ふざける、戯れる、たわける、ざれる、おどける、諧謔、ざれ言、ジョーク、ふざけた、軽蔑、見下げる、見くだす、おとしめる、軽んじる、甘く見る、さげすむ、軽侮、侮蔑、蔑視、侮辱、バカにする、小バカにする、しゃれ、駄洒落

  • 効果2諷刺する、こっけい

  • 上でもふれましたが、「錯字・音字換入」には「しゃれ」「駄洒落」といった面があります。このことから、諷刺や皮肉といったニュアンスを持つことがあります。また、常識をひっくり返すような言いまわしになることもあります。
  • キーワード::諷刺、諷する、皮肉、こっけい、ばからしい、ナンセンス、諷刺、皮肉法

  • 効果3ことば遊びの1つとして使われる

  • 「錯字・音字換入」には、ことば遊びという側面があります。
  • キーワード:言語遊戯、ことば遊び、つづり字遊び、つづりかえ、文字遊び、文字遊戯
  • 使い方
  • 使い方1単語の中の文字(音)を、お互い入れ替える

  • 使いかたはカンタンです。ある単語が持っている文字の1つ削って、他の文字を入れるだけです。べつの言いかたをすれば、「音字削減」と「音字添加」をつづけて行うものです。
  • キーワード:入れかえる、交換、かえる、かわる、取りかえる、置きかえる、交替、チェンジ、差しかえる、切りかえる
  • 例文を見る)
  • 引用は、『みなみけ』9巻から。

    ここに登場するのは、5人。「チアキ」「吉野」「マコト」と、ちょい役の「内田」。それと、イラストでは登場しないけれど、「トウマ」も登場する。

    ある朝。トウマは、朝食を食べたあとの茶碗を片づけずに学校に行こうとする。するとトウマの兄に、「片づけていけ」と注意される。そして、「女らしさが足りない」と言われてしまう。

    そのやり取りのなかでトウマは、「女らしさってなんだ?」という疑問をもった。そこでクラスメイトの吉野に、その疑問をぶつけてみる。すると「男の人が考える女らしさは、男の人に聞いてみよう」とアドバイスを受ける。そこで吉野は、マコトに聞いてみることにする。けれどもマコトは、「分からない」と答える。

    このあたりから、「錯字・音字換入」になります。

    そこで次に、チアキに聞く。するとチアキは、持っていた筆をゆっくりと動かし、次のように書く。
    • チアキ「女らしさとは……
    • 手を加え過ぎると
    • 女々しさになる」
    ここで出てきた「女らしさ」と「女々しさ」の2つが、「音字換入」というわけです。「女らしさ」の「」を「」にかえると「女々しさ」になります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「ダブレット」との関係
  • 「ダブレット」という用語があります。

    これは結局のところ、「錯字・音字換入」をくり返したものです。このことを、これから下に例をあげながら見ていくことにします。

  • 深く知るa「ダブレット」とは?
  • 「ダブレット」は、上にも書いたように「錯字・音字換入」を何度もくりかえして、まったく別の単語を生みだすものことです。

    もっとくわしく書くと、
    • 単語のつづり字を一文字ずつ別のつづり字と入れ換える
    • 同時に、途中に無意味な単語をつくらないようする
    • そうして最終的に、別の単語に行きつく
    というものです。

  • 深く知るb「ダブレット」の例
  • まあ、こんなふうに定義だけ書いても、わかりづらいかと思います。そこで、具体例をあげてみましょう。

    たとえば、私(サイト作成者)が、1つ例をつくってみました。
    • サンソ(酸素)→サンバ→サカバ(酒場)→ハカバ(墓場)
    といったものが、この「ダブレット」ということば遊びになります。

    この「ダブレット」は、アリスの作者ルイス・キャロルが発明したとされています。ルイス・キャロルはイギリス人なので、英語のアルファベットでつくった「ダブレット」となります。

    ルイス・キャロルがあげている例としては、
    • HEAD(頭)→HEAL(治る)→TEAL(小ガモ)→TELL(話す)→TALL(高い)→TAIL(しっぽ)
    などがあります。

    こういったことから、「錯字・音字換入」をくり返したものが、「ダブレット」だといえます。

  • 深く知る2「ダブレット」は、「英語」と「日本語」のどちらが作りやすいか

  • 深く知るa「英語」と「日本語」では、「ダブレット」はどちらが作りやすいか
  • ふだん「日本語」を使っているひとは、日本語の「ダブレット」のほうか作りやすい。そして、いつも「英語」を利用していれば、英語の「ダブレット」がカンタンにできる。それは、あたりまえです。

    ここで書きたいのは、それとは違います。どういうことかというと、
    • ふだん「日本語」を使っているひとが、「日本語」のダブレットをつくる
    • いつも「英語」を利用しているひとが、「英語」のダブレットをつくる
    のどちらが「ダブレット」を作りやすいか。これが気になるわけです。

    そこで、しらべてみました。かなりアバウトな計算だけれども。

    結論としては「英語のほうが作りやすい」になりました。あくまで、アバウトな計算だけれども。

    その考えかたの流れは、次のようなものです。については、読み飛ばしてもらっても、かまいません。

  • 深く知るb1つの単語から、1文字を入れかえできる組み合わせ
  • まず英語は、アルファベットが26種類。日本語の文字数(ひらがな)は、75種類(「ゐ」「ゑ」を除き、「ゃゅょっ」「ん」とを含めた数)。これを「x」とおく。

    次に、1文字を入れかえる(=音字換入する)ことができるパターン。この数を考えてみる。するとn文字の文字列のうち、ある1文字を入れかえるパターンはn通りある。

    さらに、文字を入れかえるときに、入れかえた後の文字の種類を考える。これは、x^n通りある。

    このことから、次のことがいえます。つまり、n番目の文字が、単語で1回文字の入れかえ(=音字換入)するパターン。これは、あわせるとn・x^n通りになります。

    それから、英語と日本語の単語をどこから取りあげるか。これも、かなり大切です。

    今回、英語については英検5級の試験で出題される英単語(のうち、最初の文字がA~Fのもの)にします。これに対して日本語については、上にあげた英検5級の英単語の日本語訳を使います。単語は全部で166個なので、ほんとうはもう少し数があったほうがいいとは思う。まあ、あくまでアバウトなので。

    つまり、任意に選ばれた単語がn文字から、別の単語をつくることのできるパターン。これが、n・x^n通りあるというわけです。また、その長さの単語がどれだけあるかという比率を計算するために、比率y=x/166を計算することにします。

  • 深く知るcそれぞれの単語の長さが、どのような比率で登場するか
  • 次は、どのような長さの単語が多いか(または少ないか)。つまり、単語の長さがどのような比率であらわれるか。こちらを考えてみます。

    すると、英語は
    単語内の
    文字数(n)
    全体に占めるn文字の
    単語の数(x)
    全体に占める割合
    (y=x/166)
    パターン
    (n・y・x^n)
    1000
    230.020.33
    3200.122891.57
    4340.21094829.49
    5340.246530253.49
    6300.18790481927.71
    7170.1294158446.31
    8110.07113636033.3
    9110.071406245912.1
    1040.02252668.92
    1110.010.07
    1210.010.07
    1661約26.52億通り

    となります。対して日本語は、
    単語内の
    文字数(n)
    全体に占めるn文字の
    単語の数(x)
    全体に占める割合
    (y=x/166)
    パターン
    (n・y・x^n)
    110.010.01
    2210.13111.58
    3350.2127119.73
    4430.263542372.12
    5380.2390690854.94
    6160.19702486.36
    7100.535000000
    810.010.05
    810.010.05
    9000
    1010.010.06
    166約1.36億通り
    まあ実際のところ、上のデータが信用できるかについては、責任をもちません。いろいろ無視している部分が多いので。

    結果としては、英語でダブレットを作るのがカンタン(約26.52億通り)。これに対して、日本語はちょっと難しい(約1.36億通り)。といったことになりました。

    ではなぜ、このような大きな差が生まれたか。それはおそらく、1つの単語で使われる文字の数に違いがあるからです。つまり、1つの単語に使われる文字の数が、英語のほうが多い。とくに、9文字の単語が、英語では11個ある。なのに、日本語では、0個(ひとつもない)。

    結論としては、英語のほうが日本語よりも「ダブレット」を作りやすいといえます。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 錯字・音位換入
  • 呼び方1
  • 語中音変更
  • 別の意味で使われるとき
  • ●中国語の「錯字」
  • 中国語には、「錯字」という単語があります。この「錯字」の意味は、「誤植」とか「誤字」といったものです。なので、このページの「錯字」とは関係がありません。
  • 参考資料
  • ●『レトリック事典』(佐藤信夫[企画・構成]、佐々木健一[監修]、佐藤信夫・佐々木健一・松尾大[執筆]/大修館書店)
  • 「音字換入(錯字)」について、2ページ程度の解説があります。ほかの本よりは、ていねいに扱っていると思います。
  • ●『現代英語学辞典』(石橋幸太郎[編集代表]、勇康雄・宇賀治正朋・勝又永朗・鳥居次好・山川喜久男・渡辺藤一[編集]/成美堂)
  • 少ないですが、こちらにも「錯字(音字換入)」についての説明があります。
  • 余談

  • 余談1上にあげた表の、致命的な欠点
  • 上に、パターンの数をしらべた表を書きました。偉そうに書いているけれど、そこには致命的ともいえる欠陥があります。

    それは、サンプル数が少なすぎるということです。たった166文字で、全体のことがわかるとは思えません。とくに、長い単語に関するデータは、少なすぎます。

    まあ、アバウトな表だからいいんだけどね。