挿入句:文の流れを中断させずにことばを割り込ませる
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関連レトリック挿入句

挿入句 そうにゅうく parembole

『ひつじの涙』2巻23ページ(日高万里/白泉社 花とゆめコミックス)
  • 京介「何で俺の周りって
  • 俺様(もしくは女王様)
  • わがままで厄介な人が
  • 多いんだろう…」
  • 圭(何で この人
  • こんなに
  • 悩むコト
  • 多いのかな——)
-『ひつじの涙』2巻23ページ(日高万里/白泉社 花とゆめコミックス)
  • 定義重要度2
  • 挿入句は、文の流れを中断させない程度に、ことばを割りこませるレトリックです。

  • 効果

  • 効果1「ことば遊び」に使われる

  • 同じ音をワザと連続させることで、「ことば遊び」に使われることが多くあります。
  • キーワード:ことば遊び、言語遊戯、知的遊戯

  • 効果2文を断ちきらない程度の長さの文(句)を組み入れる

  • 文の途中で、そのメインの文脈を断ち切らないようなことばを入れるのが「挿入句」です。言いかえれば、ことばを割り込ませるけれども、それは本文を流れをいったん中断させるほど長くはないもの、ともいえます。
  • キーワード:句、組み入れ、加える、加わる、つけ加える、付け加わる、組みこむ
  • 使い方
  • 使い方1——ダッシュなどを使って、独立した「挿入句」をつくる

  • ——ダッシュや( )を使うことで、「挿入句」を独立させることが必要です。これは、もしも「挿入句」がなかったとしても、完全な文としていなければならないからです。
  • 注意

  • 注意1どこからどこまでが「挿入句」なのかを、ハッキリさせる必要がある

  • 「挿入句」を使っていると、その「挿入句」から別の文が発展するということがあります。このことが、「挿入句」を使うときに注意しなければならないことです。
  • 例文を見る)
  • 例文は『ひつじの涙』2巻から。

    主人公は、「蓮見圭」。入学したての高校1年生。

    ——なのですが。
    引用した部分は、「神崎京介」という、「圭」のクラスメイトのモノローグ。
    というわけで、この『ひつじの涙』という作品の“もうひとりの主人公”にあたる、「神崎京介」。彼の視点から、ストーリーを見ていきましょう。

    まず冒頭で。
    「神崎京介」は困っている。なにせ、「蓮見圭」という女の子が、住んでいるマンションに入りたがっているから。
    しかし、困るのである。「京介」のマンションは、姉の「おさがり」として住んでいる。そんなわけで、「京介」は、“乙女チック”な部屋に住んでいるのである。こんなことをクラスメイトに知られたら、たいへんだ。

    それに、副担任の「天馬彩人」。この人、「圭」のイトコらしい。なので、「圭」が「京介」のマンションに入ることに、賛成しているようす。この人も、「京介」にとっては危険な人。

    さらに、「蓮見理人」。彼も「圭」のイトコらしい。でも、「天馬彩人」とそっくりの顔立ち。で、これまた「天馬彩人」と同じく、危険な人。

    とまあ、「京介」が周りを見わたせば、厄介者ぞろい。それを悩んでいるのが、引用のシーン。
    • 何で俺の周りって
    • 俺様(もしくは女王様)で[[li]わがままで厄介な人が
    • 多いんだろう…
    というモノローグの中にある、
    • (もしくは女王様)
    ということば。これって、メインの文章を中断させてはいません。たしかに、補足として、文のなかに入りこんでいます。ですが、決して文を中断させるものではありません。このようなものが、「挿入句」です。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「挿入句」のグループ
  • 「挿入句」の系列には、次のようなレトリックがあります。
    • 挿入句:挿入する部分が短くて、もとの文を中断させずに補足する程度に限られるレトリック
    • 挿入法:文の流れをいったん中断して、ある程度の長さの言葉を割り込ませるレトリック
    • 挿入節:文が中断され、かなりの長さで話が横にそれるレトリック
    • 脱線法:大がかりな挿入法で、話の本筋とは関係ない話が長い間、展開するレトリック
    くわしくは、それぞれの項目を参照してください。

  • 深く知る2「挿入句」と「愛称語」「換喩」との関係
  • この「挿入句」は、文の流れの途中で、ことばを割りこませるレトリックです。つまり、ある1つの文があるなかで、とつぜん寄り道をするような「句」が入る。そして、すぐにもとの本文にもどる。それが、「挿入句」です。

    なのですが、この「挿入句」を使うときには、ちょっと注意点があります。それは、「どこからどこまでが寄り道なのかということを、ハッキリさせる必要がある」ということです。

    どういうことかというと。
    ふつう「挿入句」で割りこむことになる「句」というのは、短いものです。そのために文の流れが、「本題」→「寄り道」→「本題」、という感じでクルクルと変わることになるのです。

    これは、文を読む(または聞く)側からすると、かなりの負担になります。その文で話題にしていることが、「本題」から「寄り道」に入ったかと思えば、すぐに「本題」に戻る。こんなふうに、文のメインとなっているはずの話題が、あっちへいったり、こっちへいったり、といったことになるわけです。このことは、読み手(聞き手)のアタマを混乱させかねません。

    こういったことを避けるためには。
    このページで引用した例文のように、( )でくくる、といった方法があります。( )で囲まれたところは、「寄り道」だということがすぐに分かります。ですので、フラフラした文にはなりません。

    もちろん。
    上に書いたような( )記号だけではなく、「 」だとか〈 〉だとかで囲い込んだばあいでも、同じように混乱を避けることができます。また、そのようなカッコを使わずに、——というダッシュ記号で挟みこんでもOKです。

    もう1つの方法として。
    かなり難しいテクニックになりますが、「挿入句の終わりを、句点(。)で区切る」、というパターンが考えられます。ほんとうのところは、「挿入句」よりも、むしろ「寄り道」が長い「挿入法」だとか「挿入節」のほうが、使いやすいテクニックです。けれども文の流れによっては、「挿入句の終わりを、句点(。)で区切る」、といったこの方法を利用することもできます。

  • 深く知る3『レトリック事典』での、「挿入句」の説明
  • 『レトリック事典』は、「挿入法」を細かく分けることには否定的です。ようするに、確かに伝統的なレトリックでは「 挿入法」と「挿入句」とを区別していた。けれども、これを下位の種類に分類することが有意義かどうかは別である、と。

    けれども、このサイトでは伝統的レトリックにしたがっておきます。つまり、いちおう「 挿入法」と「挿入句」の区別をつくっておくことにします。

    なお、念のために書いておくと。
    『レトリック事典』は、「挿入法(parenthesis)」のことを「(自立)挿入語句」と呼んでいて、「挿入句(parembole)」のことを「(依存)挿入語句」と呼んでいます。

  • 深く知る4『日本語レトリックの体系』での、「挿入句」の説明
  • 『日本語レトリックの体系』によると、「折挿法」というレトリックがあります。この「折挿法」は、「文の途中で他の文章をはさみ、そして再びもとの文に戻って続ける」という趣旨の説明がされています。

    ですので、この「折挿法」は、「挿入句」か、もしくはそれに近いレトリックと位置づけることができます。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 挿入句
  • 呼び方2
  • 折挿法
  • 参考資料
  • ●『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • 「挿入句」について書いてある本として、あげておきます。ただ、「挿入法」の中から「挿入句」を独立して項目を立ててくれている本は、ほとんど見当たりません。