稀薄法:どぎつい表現を避け表現をぼやかす技法
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きはくほう
roundabout
1年ぶりに吉野君に会いに行けば
なんと その前日に
流行病であっさり
昇天した
という
(がーん)
そのショックもさめやらぬ2月後
(えーんえーん吉野くん)
お祖母さままで
身罷られてしまった
のよ
(えーんえーんおばーさまー)
そして泣く泣く都に帰ってきた
あたしを待っていたものは…
父「新しい母上だよ 瑠璃」
義母「よろしくね 瑠璃さん」
(どん!)
か…母さまが
亡くなって
年も経ってないのに!?
ああ 人間て何てムナシイ…!!
-『なんて素敵にジャパネスク』1巻22ページ(山内直美・氷室冴子/白泉社 花とゆめCOMICS)
稀薄法
は、表現をぼやかす技法の一種です。そのままだと表現がどぎつくなったり、生々しくなったりするばあい。古語や外国語などに表現をかわすことによって、ことばを淡くする技法です。
不快感をやわらげる
直接にモノゴトをいう。そのことが、あるシーンでは不快感をぬぐいとることができます。
:不快感、不愉快、不快、悪感情
あたりをやわらかい表現にする
真正面から言うと、ときには頭ごなしに決めつけているという印象を、もたれることがあります。そのようなときに「稀薄法」を使うことが決め手になることがあります。
:やわらげる(あたりを)、緩める(あたりを)、緩和(あたりを)、緩衝(あたりを)、クッション
具体的なものを抽象化する
表現しようとしているそのものを、はばかることなく具体的な表現をする。そのようなことをしたばあい、時によっては、さしさわりがある場合もあります。そんなときには、あるていどの配慮をして、抽象的に伝えることが求められます。
:抽象的、薄い、淡い、ほのか、ぼんやり、模糊、うっすら、ぼうっと、ほんのり、ぼかす、ぼやける、ぼやかす、かすむ、言い渋る
狭い意義の語を広い語におきかえる
モノゴトを表現しようとするとき。そのものズバリを言うのではなく、あるていど広い意味の言葉を使う。このことによって、「稀薄法」を使うことができます。
:広義
古語や外国語を使う<
古語や外国語はふだん、なじみのない言葉づかいです。そのため、そういった古語や外国語を用いることで「稀薄法」を実現することができます。
:古語、文語、外国語
引用は『なんて素敵にジャパネスク』1巻から。
上で強調した「昇天した」「身罷られてしまった」「亡くなって」というのは、ダイレクトに書けば「死ぬ」ということです。しかし、それでは物騒だし縁起も悪いし体裁も悪いので、もっとやわらかな表現にあらてめているわけです。
この「稀薄法」の対象となるものには、こういった生老病死のほかに、性や排泄にかんするものがあります。
「善玉タイプ」と「悪玉タイプ」
『認識のレトリック』(瀬戸賢一/海鳴社)では、「善玉」と「悪玉」との、2つのタイプがあるとしています。同書の中では、この2つのタイプ分けを「
婉曲語法
」の解説のなかで述べています。ですが、このサイトでは「稀薄法」に当たるレトリックなので、ここのページで紹介します。
善玉タイプ
「老夫婦」→「熟年カップル」
「癌」→「ポリープ」
「トイレ」→「化粧室」
「死亡保険」→「生命保険」
「後進国」→「発展途上国」
「肥満サイズ」→「ゆったりサイズ」
悪玉タイプ
「賄賂」→「政治資金」
「買収」→「接待」
「物見遊山」→「視察」
「退却」→「転進」
「売春」→「援助交際」
このように、「稀薄法」にも、「よい場合」と「わるい場合」との2タイプがあるとみていいでしょう。
もっとも。
何を「よい場合」を分けて、何を「わるい場合」に分けるのか。それは一見すると、かんたんなことに思える。でもよく考えると、とっても難しいことだということに気づく。
まあ、上にあげた「悪玉タイプ」のうち、「賄賂」と「買収」と「売春」は犯罪だから、まあ「わるい場合」といっていいかもしれない。
でも、「物見遊山」のことを「視察」と言っては「わるい」をいう判断をするためには、公務員の職業観だとか倫理観だとかが前提になっている。
それに、「退却」のことを「転進」と言っては「わるい」という判断をするためには、情報の公開性だとかが前提となっている。太平洋戦争末期に軍部が使った「転進」のことを「わるい」と言いたいのだったら、ここでは書ききれないほどの甲論乙駁が必要になってくる。
だから、「わるい」のだから「わるい」のだ、なんて言って言い逃れることはできない。そんなことで、この「善玉」「悪玉」を分けることなんていうのは、とうていできない。
「稀薄化」による「同語回避」
例文では「死ぬ」という意味のことばが続くことになります。ですので何も考えないで書くと、何度も「死ぬ」ということばが続いてしまう「体裁が悪い」文になってしまいます。
そのように全く同じ言葉が連続することを、あんまり良くないと考えて回避する。そのようなレトリックを、「
同語回避
」といいます。
くわしくは、「
同語回避
」のページを参照してください。
「稀薄法」と「婉曲語法」との関係
「稀薄法」は、「
婉曲語法
」の代表的なものになります。
稀薄法
『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
「婉曲語法」のなかに「稀薄法」を含めつつも、「稀薄法」に一項目をおいている。そのような分類をしている本としては、こちらがあります。
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