転喩:ものごとに先行または後続する表現をする
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転喩 てんゆ metalepsis

『“文学少女”と美味しい噺(はなし)』 (野村美月[原作]・日吉丸晃[作画]/角川書店 あすかコミックスDX)
  • 心葉(始まりは中学3年の春
  • あれも桜の頃だった
  • それはぼくが大好きな子に
  • 気持ちを伝える
  • ためだけに書いた
  • 生まれて始めての小説だった
  • けれどもそれは
  • その女の子を
  • 深く深く傷つけてしまった
  • ただ一つわかったのは
  • 小説を書かなければ
  • こんなことにはならなかった
  • ということだけ――
  • (それなのに――)
  • たった2年の後…
  • ぼくはヘンな先輩に
  • 文芸部に引っ張り込まれ
  • 毎日その人のために
  • 原稿用紙のマス目を埋める
  • 羽目になっていたのだ)
-『“文学少女”と美味しい噺(はなし)』 (野村美月[原作]・日吉丸晃[作画]/角川書店 あすかコミックスDX)
  • 定義重要度2
  • 転喩は、ある物事を直接に言うかわりに、それに先行または後続することを言うレトリックです。言いかえれば、ある物事について、
    • 「先行」する局面をあらわすかわりに、「後続」する局面をあらわす
    • 「後続」する局面をあらわすかわりに、「先行」する局面をあらわす
    のどちらかに当てはまるレトリックです。

  • 効果

  • 効果1遠回しで婉曲的な表現を作る

  • いずれにしても、遠回しな表現となります。
  • キーワード:婉曲、遠回し、迂言、ほのめかす、黙示、ぼやく、ぼやかす、言い渋る、間接、隠語、スラング、符牒、暗号
  • 使い方
  • 使い方1「先行」と「後続」にあたることばを使う

  • 上にも書きましたが「転喩」は、『「先行」する局面をあらわすかわりに、「後続」する局面をあらわす 』『「後続」する局面をあらわすかわりに、「先行」する局面をあらわす』という2タイプがあります。このうちで、どちらを使えば「転喩」となります。
  • 例文を見る)
  • 上で引用した画像は、『“文学少女”と美味しい噺(はなし)』1巻から。ちょっと長い引用で、もうしわけありません。

    引用したのは、主人公である心葉(このは)のモノローグのシーン。

    中学生のころ心葉は、文芸雑誌に応募したところ大賞を受賞した(ただし少女のペンネームで)。そのため、ある少女を「深く深く傷つけてしま」う。
    • ただ一つわかったのは
    • 小説を書かなければ
    • こんなことにはならなかった
    • ということだけ――
    という思いから、心葉その後まったく小説を書かなくなった……、はずだった。

    けれども高校に入学したあと、
    • ぼくはヘンな先輩に
    • 文芸部に引っ張り込まれ
    • 毎日その人のために
    • 原稿用紙のマス目を埋める
    • 羽目になっていたのだ)
    と。そういうわけで、もういちど小説を書くようになる。

    ここで引用をもういちど、見返してみる、すると、「転喩」にあたる表現に出会うことになります。

    心葉は、まず「小説を書」くという表現を使います。この表現は、何てことのないものです。ですが、次に使ったのは、「原稿用紙のマス目を埋める」とったものです。これは、クセのある言いまわしです。

    この2つの言いまわしを、よく考えてみる。すると、「原稿用紙のマス目を埋める」ことによって、「小説を書」くことになるといえます。

    これは、
    • 「後続」する局面をあらわすかわりに、「先行」する局面をあらわす
    というパターンの「転喩」であるといえます。

    原稿用紙のマス目を埋める」というのが「先行する局面」になり、その結果におこる「小説を書」くというのが「後続する局面」となります。そして、ここでは「先行する局面」しかオモテ立っては表現されてはいません。

    ですので「転喩」なのです。

    なお。
    いちど「小説を書」く、という表現を使う。そのあとには、同じ「小説を書」くという同じ表現を使うと、ヤボになってしまいます。このことを避けるために、「[[spb原稿用紙のマス目を埋める」という、ちょっと変化のある表現を使ったものと思われます。

    その点についてくわしくは、「 同語回避」を参照ください。
  • 例文を見るその2)
  • 『げんしけん』2巻57ページ(木尾士目/講談社 アフタヌーンKC)
    • 会長「……それより
    • どうだろう 春日部さん
    • 正式に現視研に……」
    • 春日部「ヤです♡」
    • 会長「……即答だね」
    • 春日部「当然ですよ」
    • 斑目「会長〜〜 この人が
    • 入るわけないじゃないですか」
    • 会長「ん…… ま……
    • 別にいいか
    • 無理に 入らなくても……
    • この部室をあれだけ利用
    • してるわけだし 事実上
    • 会員みたいなものだしね」
    • 春日部(ドキッ)
    • 斑目&高坂「?」
    • 春日部(……)
    • 会長「コーサ……」
    • 春日部「{会長!」
    • 自治委員会の方でも疑問に
    • 思ったんですけど
    • 何で そうゆうの
    • 知ってるんですか?
    • 本当に偶然 通りかかった
    • だけなんですか?〕
    • 会長〔ん? 何で?
    • 君と高坂くんのアレも
    • 偶然だよ?〕
    • 春日部〔ウソですよ すっごい
    • 気をつけてるんですから!
    • ………
    • してません? 盗撮……とか〕
    • 会長〔してないよ そんなこと〕
    • 春日部〔ああゆうの 本っ当に
    • 嫌なんですけど!
    • 困るんですけど!〕
    • 会長〔困ったな〕
    • 斑目「何してんの?」
    • 会長〔もし僕が
    • そういう人だったら
    • とっくに大学に
    • 居られなくなってる人が
    • 男女問わず
    • いっぱいいる はずだけど
    • そんなの一人もいないでしょ?〕
    • 春日部「……… ………
    • 入会します」
    • 一同「なにイイイイイイイイイ」


    引用は『げんしけん』2巻から。

    これは、典型的な「転喩」ではないけれど、ここに書いておきます。

    作品の舞台は、大学のサークルのひとつとして活動している「現代視覚文化研究会」こと「現視研(げんしけん)」。

    主人公は笹原完士。…なのですが、引用した場面にはちょっと関わっていないので、その説明は省略。
    この引用した部分で知っておかなければならないのは「春日部咲」についてなので、そっちを説明していきます。

    春日部咲は、めでたく大学に入学。その時、子供時代に近所に住んでいた「高坂」と偶然に出会い、恋人関係になっていく。高坂はルックスもなかなかいいし性格もやさしい。ニックネームは「コーサカ」。なんか名字そのままのような気がするが、とにかく、以下「コーサカ」と呼んでいくことにします。

    それはいいとして、その恋人関係には大きな落とし穴があった。
    コーサカは「オタク」だったのだ。

    そしてコーサカは、「現視研(げんしけん)」に入会する。このサークルは、「アニメ」「マンガ」「コスプレ」「ゲーム」「同人誌」…(以下略)を総合的に楽しんでいるという、まさに「オタク」のためのサークル。そして、まったく「オタク」とは縁のないはずの春日部も、コーサカに連れられて「現視研(げんしけん)」に一緒に来るようになっていく。

    しかし春日部は、「現視研(げんしけん)」には、絶対に入会しないと強く言い続けていた。「オタク的活動」は自分と縁のないものなのだから、「現視研(げんしけん)」とは関係ないと主張していた。

    そんな中で、「現視研(げんしけん)」の会長に入会を誘われているのが、引用の場面。右に書いてある文章のほうは54ページから引用をはじめていますが、すべて画像をアップすると異様なほど大きなサイズになるので、画像の引用は57ページのみ。
    それで、
    • 会長〔もし僕が
    • そういう人だったら
    • とっくに大学に
    • 居られなくなってる人が
    • 男女問わず
    • いっぱいいる はずだけど
    • そんなの一人もいないでしょ?〕
    という会長の発言が、「転喩」にあたります。これは、結果のほうだけが書かれていて、原因のほうは書かれていません。結果のほうは「とっくに大学に居られなくなる」というものですが、その原因については直接には書かれていません。ですので「転喩」にあたります。

    しかし、会長の「転喩」での言葉の効果は絶大でした。あれほどまでに、かたくなに入会を拒否してきた春日部が、みずから「入部します」と言いました。

    ですが、「現視研(げんしけん)」の部屋の中で、春日部とコーサカは何をしていたのでしょうか。それは、はっきりとは分かりません。ですが、「現視研(げんしけん)」メンバーの斑目の分析によれば、
    • 「部室で高坂と何かしているところを
    • 会長に見られて
    • 脅されて入会した 
    • ってトコか?」
    • (67ページ)
    と言っています。このあたりから、読み手は想像するよりほかないみたいです。

    なお。
    アニメの「げんしけん」の各話のタイトルについて、「 迂言法」で少し書いてあります。そちらのほうもご参照ください。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「転喩」と「換喩」との関係
  • この「転喩」というレトリックは「 換喩」の一種であるといえます。さらには、「転喩」は「 換喩」の中に含まれるとして「転喩」という項目を立てないこともあります。

  • 深く知る2「転喩」と「婉曲語法」との関係
  • この「転喩」は、直接には言わずに、わざわざ先行していたり後続していたりすること言っていることになります。ですので、「 婉曲語法」とも強く関連します。

    たとえば、「お手洗い」という建物。そこでは、手を洗うことがメインではありません。手を洗うのは、あくまで「後続」することをあらわしているにすぎないわけです。

    どんな「 婉曲語法」も、「転喩」にしたがった表現をとるわけではありません。ですが、「転喩」によって表現をしている「 婉曲語法」もあります。

  • 深く知る3「転喩」と「転移修飾語」との用語としての区別
  • 「転移修飾語(transferred epithet)」のことを「転喩」と呼ぶことがあります。ですがこのサイトでは、上に書いたようなものを「転喩」とします。“transferred epithet”については「 転移修飾語」という項目で扱うこととします。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 転喩・転喩法
  • 呼び方2
  • 代替・メタレープシス
  • 参考資料
  • ●『レトリックのすすめ』(野内良三/大修館書店)
  • たくさんの例文が書いてあるので、分かりやすいと思います。同じ者の『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会) も参考になります。
  • ●『レトリックの記号論(講談社学術文庫 1098)』(佐藤信夫/講談社)
  • 佐藤信夫先生の著作です。ほかに『レトリック・記号etc.』(佐藤信夫/創知社)もあります。
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