転移修飾語:本来ならば修飾しないはずのことばを修飾するもの
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転移修飾語
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転移修飾語
転移修飾語
てんいしゅうしょくご
transferred epithet
……そうね
温度が低すぎるわ
葉も開ききってなくて
香味も飛んでいるわ
紅茶とは
呼べないけど
……とても
やさしい味
だわ
とても
想われているのね
ジュン
-『Rozen Maiden(ローゼンメイデン)』1巻54ページ(PEACH−PIT/幻冬舎 バーズコミックス)
転移修飾語
は、本来ならば修飾しないはずのことばを修飾する、というレトリックです。つまり、形容詞が修飾しなければならない語から離れて、関わりのある他のことばの修飾をするというものです。
強調することで、刺激的な文をつくる
この「転移修飾語」は、形容詞がルール違反の位置に割りあてられるものです。なので、強調、その移動した部分で、強調の効果が出ることになります。また時として、その強調は刺激的なものにかります。
:強調、強い、強める、強まる、刺激的、興奮、エキサイト
詩を作るキッカケとなる
「転移修飾語」では、形容詞が本来は置かれる場所から移動していることになります。そのため、ことばをあやつって詩を作る時に役立ちます。
:詩、詩的
文法のもっているルールを無視して、形容詞が他の位置に移動する
ふつうならば、形容詞は、形容する相手となることば(つまり「被修飾語」)との関係から、文法のルールにしたがったトコロに置かれることになっています。ですが、このルールに違反して、本来のものを修飾するトコロには位置しない。かわりに、もともと形容するはずだったものから少しズレたものを形容する場所に置かれる、というものです。
形容詞が、もとから考えとズレた位置に置かれる
形容詞が、本来であればその形容詞が修飾すべき語ではなく、それに近い他の語の修飾するものです。別の言い方をすれば、ある形容語を、その本題から離して、それと関連する何か別のものを修飾させる、というものです。
文法ルールに反しているため、誤用だと思われかねない
「転移修飾語」を使うということ。それは単語を、文法ルールから外れて使うことと、ほとんど同じです。したがって、その文章が「誤り」「誤用」だと考えられてしまうこともあります。
:誤り、間違える、間違う、間違い、誤る、失敗、思い違い、勘違い、見当違い、見間違える、誤解、早合点、思い違い、誤用
ふさわしくないもの、と見られることがあり得る
「誤り」「誤用」だとは思われないにしても。表現が奇抜なので、風変わりなものとして遠ざけられることもあります。
:奇異、奇妙、珍奇、風変わり、新奇、目新しい、奇抜、突飛、エキセントリック
例文は『Rozen Maiden(ローゼンメイデン)』1巻から。
話せば長くなりますが。
主人公は、桜田ジュンという少年。彼は今、「ひきこもり」で学校に通っていない。それで何をしているかというと、通販であやしげなオカルトグッズを集めている(気に入らなかったものは、クーリングオフしている)。
そして「ジュン」には、姉の「桜田のり」がいる。彼女はそんな「ジュン」のすがたを見て、立ち直ってもらいたいと思いながらも、実際には家事全般を彼女が担当している(クーリングオフも、外での手続きは「のり」がこなしている)。
というのも、「ジュン」と「のり」の両親は、海外に赴任していて、今は家にいないから。
そんなある日。
いつものように送られてきた、あやしげなオカルトグッズ。その中に、一体の人形があった。
どうもゼンマイ式のようなので、ゼンマイを回してみる。すると、その人形は、まるで人間みたいに話し始めた。
「私の名は<真紅>
薔薇乙女(ローゼンメイデン)の第5ドール
そしてジュン おまえは
これより真紅の下僕となる」
(25ページ)
ということで、「ジュン」は、人形の「真紅」の下僕になってしまった。
そして手始めに「ジュン」は、
「10分以内に紅茶を持ってきなさい
95℃以上でミルクも付けて」
(44ページ)
と命令される。だがその命令はそのままそっくり、「のり」へと命令される。
「おいっ
今すぐ僕の部屋に紅茶を淹れてこい」
(49ページ)
ということで届けられた紅茶について語っているのが、引用のシーン(文章は、53ページから54ページ)。
「のり」の淹れた紅茶は、あまり真紅の口には合わなかったようです。ですが、そこで一言。
やさしい味
と言っています。これを「転移修飾語」と考えます。
つまり、本来「桜田のり」を形容するはずであった「やさしい」という形容詞が、「のり」の淹れた紅茶に転移して形容していると考えます。
「共感覚法」との関係<
なお。
レトリックに詳しい人と、このサイトをすみずみまで読んでいただいてる人には一つの疑問が浮かぶかもしれません。
つまり、これは「
共感覚法
」ではないか、という疑問です。
「
共感覚法
」については、詳しくはそちらのページを見ていただきたいのですが、これを一言で言えば「五感のなかでの言葉の貸し借り」です。例えば、
「うるさい味」ならば、「味覚」を表現するために「聴覚」を借りてきている。
「くすんだ味」ならば、「味覚」を表現するために「視覚」を借りてきている。
「かぐわしい味」ならば、「味覚」を表現するために「嗅覚」を借りてきている。
「なめらかな味」ならば、「味覚」を表現するために「触覚」を借りてきている。
といったものが、「
共感覚法
」にあたります。
ですが、今回の「やさしい味」の「やさしい」という言葉は、五感のどれにもあてはまらないものです。ですので、この表現を「
共感覚法
」と見ることはできません。
やはり、「転移修飾語」と考えた方が、すっきりします。「やさしい味だわ」のあとに「想われているのね」という言葉が続いていることからも、そのことがいえると思います。
「転移修飾語」の語源について
このレトリックにあたる、英語の〈transferred epithet〉について。これは、珍しく、近代の英語圏で生まれたレトリックです。ほとんどのレトリックは、ギリシア・ローマの時代から脈々と受け継がれてきているものです。けれども、〈transferred epithet〉については違うようです。
「転移修飾語」と「代換」との関係
「転移修飾語」は、「
代換
」の一種です。つまり、「代換」のうちで形容詞が移動するものを、とくに「転移修飾語」と呼びます。
転移修飾語
転喩
転移修飾法・形容詞転移
※このサイトでは、「
転喩
」というレトリック用語は、ほかの意味で使っています。
『レトリックの意味論—意味の弾性—(講談社学術文庫 1228)』(佐藤信夫/講談社)
このマイナーなレトリックを掲載している本は少ないのですが、が、珍しく「転移修飾語」を扱っています。佐藤信夫先生は「形容語転移」という名前でとりあげていますが、これは「転移修飾語」を同じものです。
『日本語修辞辞典』(野内良三/国書刊行会)
「転移修飾語」について、かなりくわしく書いてあります。例文が日本語なので、読みやすいのでオススメです。
「Rozen Maiden」というタイトルについて
この、「Rozen Maiden」というのは、ドイツ語です。なので、「Ro
z
e」ではなく「Ro
s
e」が正しいはずです。それなのに「Ro
z
e」となっています。
…単なる作者のミスで間違えているだけ?
と思っていたら、人形である彼女たちを作ったのが「Ro
z
en」という人形師でした。そういうことであれば、「Ro
z
en」で全く問題ありません。
まあ「レトリック」っぽく書くと、「Ro
z
en」という人形師の名前と、「Ro
s
e」という言葉が、「
重義法
」の関係になっているわけです。つまり、「ローゼン」には、二重の意味が込められているわけです。そうだとすると、スペルが「Ro
z
en」になっていても問題はありません。
「
重義法
」で出した例文は、『School Rumble』でした。これも、片方はスペルどおりの意味です(『School Rumble』)。ですが、もう一方のスペルには合っていません(『scramble』)。ですが、この表現の方法も、「
重義法
」と考えれば問題ありません。
なお、人形師「ローゼン」ではなく、「Ro
s
e」のほうのドイツ語を訳すと、こんな感じになります。
「Rosen」は、「バラの花」という意味の「Rose」に、
複数二格「〜の」を意味する「-en」がくっついて、「Rosen」。
なので、あわせて「バラの花の」という意味になります。
「Maiden」は、「乙女」という意味の「Maid」に、
複数一格「〜たち」を意味する「-en」が
くっついて、「Maiden」。
なので、こちらはあわせて
「乙女たち」という意味になります。
で、両方を合わせると、
「バラの花の乙女たち」という意味です。
文法上はそのとおりですが、
ここは日本語らしく、
「バラの乙女」と翻訳するのが、
ふさわしいと思います。
たぶん、この説明で間違っていないと思う。でも、いまいち自信がありません。だって私(サイト制作者)は、大学の第二外国語が「ドイツ語」であったという、ただそれだけなんだから
というわけで。もし間違っていたら、[
メール
]に向かって「間違っているよ〜」とメールを送っていただけると、うれしいです。
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