冷嘲法:正面から相手をなじる技法
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冷嘲法
関連レトリック
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きはくほう
sarcasm
香椎守「セレブって
何だ——」
(九世に、バケツの水をかける)
「…重い思いして
水運んできたってのによ!!
こっちゃ好きで
慈善事業してん
じゃねーんだぞ!!」
陸奥九世「真水か。
塩で服がギトついたコトロだ
ちょうど良い。」
香椎守「ぐお
せめて憎まれ口たたけー!
&コッチ見てしゃべ
れ——!!」
陸奥九世「
俺の視界に無能と
不細工を兼ね
備えた輩はいらん。
」
服部先生「まァまァ香椎クン
相手はちっちゃな
病人サンよ〜?」
-『殲鬼戦記ももたま』1巻34〜35ージ(黒乃奈々絵/マッグガーデン BLADE COMICS)
冷嘲法
は、正面から相手をなじるレトリックです。つまり、包みかくすことなく、まっ正面から強いことばで攻撃するものです。
非難とか軽べつといったものをあらわす
この「冷嘲法」は、相手の弱点の急所をつくレトリックです。そのため、ズバッと切り込むような、強力なことばを必要とします。
:辛辣、口あらく、頭ごなし、口汚い、口が悪い
相手方の弱点を、真正面から攻撃する
攻撃したい相手方の弱点がある。そのときに、その弱点を非難し、真正面から攻撃するのが「冷嘲法です。
:非難、とがめる、追及する、問いつめる、難じる、攻撃、論証、弱点、欠点、弱み、瑕疵、引け目、難点、短所、軽べつ、見下す、軽んじる、あなどる、ないがしろ、攻撃、攻める、攻めよる
引用は、『殲鬼戦記ももたま』1巻から。
作品の舞台は、桃源島。
この「桃源島」という島には、とある伝説があります。それは、〈桃太郎〉は実在のヒトで、鬼退治をした〈桃太郎〉が退治したことによって国から褒美としてもらった。それが、「桃源島」というところ。そして、それ以来は代々〈桃太郎〉の子孫が、「桃源島」を支配している。とまあ、そういったような話が語りつがれています。
なので。現在「桃源島」を統治しているヒトも、みんなから〈桃太郎〉の子孫だと思われています。
そして。かたや主人公の、陸奥九世。
陸奥九世の生まれた陸奥家には、これまた伝説があります。その伝説がそんなものかというと、陸奥家は、〈桃太郎〉に「鬼退治」された〈鬼〉の家系。そして「桃源島」は、もともと〈鬼〉だった陸奥家の領地だった。そまあ、そんな昔話があった。そして陸奥九世は、〈桃太郎〉に奪われた「桃源島」を、〈鬼〉の領地として取りもどそうと思っています。
そういったわけで、陸奥九世は。「桃源島」へと向かう「桃源丸」という船にコッソリ乗り込んで、「桃源島」にたどり着きます。
さいごに、香椎守。
香椎守は、「桃源丸」をふつうの旅客フェリーだと思っていた。でも「桃源丸」は、「桃源島」へと向かう船だった。そのためワケも分からず、いきなり「桃源島」に連れてこられる。そして、香椎守には「殲鬼師」となる素質があると告げられる。この「殲鬼師」というのは、「桃源島」を〈鬼〉から守るための能力のこと。
かくして。香椎守は、「殲鬼師」を育てるための学校に入ることになります。なお、この学校は「桃源島」に建てられています。そして、この入学については拒否権や選択権はない。つまり香椎守は、かってに「桃源島」に連れてこられた上で、かってに「殲鬼師」を養成する学校に投げ込まれることになったわけです。
…とまあ。かなり省略したところがありますが、カンベンして下さい。なにせ『殲鬼戦記ももたま』には、たくさんの伏線が張られたり、舞台設定が複雑だったり…。そんなわけで、このくらいにしておきます。
それで。やっとのことで、「冷嘲法」というレトリック用語の説明に入ります。
香椎守は陸奥九世のために、バケツに水をくんで持ってきた。でも陸奥九世は、ひとりで「アイランド・リゾート」を満喫しているだけ。なので香椎守は、バケツにの水を陸奥九世に浴びせかける。だが陸奥九世は、香椎守のほうを見向きもしない。
そして、陸奥九世のコメント。
如月「
俺の視界に無能と
不細工を兼ね
備えた輩はいらん。
」
このコメントは、「冷嘲法」というレトリック用語にピッタリです。正面切って、相手を攻撃するという言葉づかいをしています。
無能
不細工
輩
といった単語は。文字どおりに使われれば、ふつう相手を攻撃することになります。ですので、「冷嘲法」ということができます。
なお、引用したこのシーンには。
ほかにも、さまざまなレトリックが入りまじっています。ですが、このページでは「冷嘲法」というレトリックに関係するところだけを書いておくことにします。
「冷嘲法」についての、2つの考えかた
「冷嘲法」を、どのようにとらえるか。このことについては、おおきくわけて2とおりがあります。ことのことを、これ先で見ていこうと思います。
「トゲのある」表現であればよい
こちらは、強い非難や中傷をしていれさえすれば、それで「冷嘲法」といえるという考えかたです。
「本心とは反対に」言っていなければいけないとする
つまり、相手を強く非難や中傷するつもりでいる。だが、自分の思っていることを正面からは口にしない。それでいて実際には、相手を強く非難や中傷することを伝える。「冷嘲法」とはそういうものだという考えかたです。
このサイトでの使いかた
このサイトでは、
のほうを「冷嘲法」としています。つまり、むしろ正面からの攻撃を「冷嘲法」と考えています。
これは、このサイトでの「
皮肉法
」の考えかたに原因があります。というのも、このサイトでは「
皮肉法
」について、次のように定義しました。つまり、
回りくどさ : ワザと自分が思っていることと反対のことを言う
推論 : 聞き手のほうでは、相手の言っていることが思っているのと反対だとキャッチすることになる
引用性 : 相手が言ったり行ったりしたことに関してのことを言う
トゲがある :相手を非難したり批判したりするために使う
といった特徴をそなえているレトリックを、「
皮肉法
」としました。
そのため、もし「冷嘲法」について
でに書いたほうの定義を採用してしまうと、「
皮肉法
」と同じものになってしまいます。ですので、
に書いたほうのものは受け入れられないのです。
以上の理由から、
上のほうを「冷嘲法」としています。
「冷嘲法」が、なかなか見当たらない
葛見「やった!!
臓器提供者が
現れたんスね!!」
如月(葛見の顔を平手打ちにする)
葛見(!?)
如月「コーディネーターに
なりたいなら
今の笑顔 一生
忘れない事ね」
葛見「はぁ?」
如月「
この世で
一番卑しい 笑い」
このように。「冷嘲法」についての2つの考えかたの中で、
のほうを「冷嘲法」だと考えたばあい。
結果として「冷嘲法」にあてはまる例が、かなり少なくなります。
これは、ナゼかというと。まっ正面から相手を非難するよりも、もってまわったような言いまわしのほうが「相手に与えるダメージが大きい」からです。つまり、ふつうに正面から攻撃するよりも、「
皮肉法
」のような「回りくどさ」があるほうが、ヒトを強く傷つけることができるからです。
そういった関係で、「冷嘲法」の例は少ないのですが。
もうひとつの例文として、『ブッキングライフ』1巻から。
主人公は、葛見健太郎。22歳。
葛見は、新しく「臓器移植コーディネーター」という仕事につく。
そして、葛見が引用している場面で話している相手は、先輩にあたる「如月」という女性。
で。
このシーンで問題となっているのは。「臓器移植コーディネーター」という職業についての、倫理性についてです。
どうしてかというと、
「臓器コーディネーター」というのは、
提供された臓器を
移植を待つ
患者に
公平 公正に
振り分け
移植医療の
サポートをするのが
臓器移植コーディネーターである
(83ページ)
からです。
そして、ある時。
「臓器移植コーディネーター」としての仕事のなかで。「葛見」と「如月」は、臓器を渡すことができる人(ドナー)があらわれたれたことを知った。
で。その時に「如月」が口にしたことばが、引用の部分です。
この世で
一番卑しい
笑い
これは、どういうことかというと。
臓器提供者があらわれた。それは、たしかに1人の「助かる命」が生まれたということです。でもそれと同時に、ひとつの「脳死となったドナーの命」があるからです。
そういった葛藤があるからこそ。このシーンでは、はなし相手を強く攻撃する「冷嘲法」というレトリックが使われた。そのように言うことができます。
このように「冷嘲法」は、かなり攻撃的なメッセージを相手に投げかけるものです。
冷嘲法・冷嘲表現
皮肉法・いやみ
あざけり法・嘲罵表現
『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
上のほうで
を採用したのは、この本によるものです。
『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
の立場をとる本として、これをあげておきます。こちらのばあい、「冷嘲法」ではなく「皮肉法」というレトリック用語をあてることが多くなっています。
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