パロディー:ことばの「見せかけ」だけ引用してくる
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パロディー ぱろでぃー parody

『わいるど☆ぴっち』1巻90ページ(まりお金田/集英社 ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)
  • イツカ「そりゃ とうぜん合宿
  • らしーことをするに
  • 決まってるでしょ!!
  • その名も——どらごんだま
  • 探し——!!」
  • 健司「パクリじゃ
  • ねーか!!」
  • 信太郎「なんの修業
  • なんスか ——ッ」
  • 風見「まぁ 間宮の
  • 考えそうな
  • ことではある!!」
  • 千歳「使う道具は
  • 野球ボール7個ッ
  • とっても経済的
  • ウチにはグローブが
  • 2個しか
  • ないからねッ」
  • 健司「それが理由か!!」
-『わいるど☆ぴっち』1巻90ページ(まりお金田/集英社 ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)
  • 定義重要度3
  • パロディーは、ことばの「見せかけ」だけ引用してくる、というものです。たしかに元の作品がもっていた「言いまわし」だけはマネています。ですが、その引用することになった新しい作品では、元の作品が使っていた「状況」とは大きく外れたものとして扱われることになります。

このサイトでは、元からある作品に「似せる」ものとして2つの用語を使うことにしました。その2つというのは、「パロディー」と「パスティーシュ」です。注意してほしいのは、著作権法の扱いとは関係がないということです。「パロディー」が著作権法違反だけれども、「パスティーシュ」は法律に違反していない——そのようなことは一切関係ありません。
  • 効果

  • 効果1元となる作品を、バカにして茶化す

  • 「パロディー」を使うことによる効果としては、「茶化す」「からかう」といったことが挙げられます。
  • キーワード:茶化す、ばかにする、からかう、冷やかす、あざける

  • 効果2諷刺や批判をする

  • 「パロディー」を使うことによって、諷刺したり批判したりすることができます。そして、その批判や諷刺といった効果は、引用する元となっている作品だけに限られません。世の中の動きなど、いろいろなものを批評することができます。
  • キーワード:諷刺、とがめる、当てつける、当てこする、諷する、アイロニー、イロニー、皮肉、批判、批評

  • 効果3卑俗なものにする

  • 元となっている文が、マジメなものであるほど。「パロディー」と使ったときに、俗なものに追いやるという効果が強くなります。
  • キーワード:卑俗、通俗、俗化、低俗

  • 効果4ユーモアな表現としての「パロディー」

  • 「パロディー」にも、よい面もあります。たとえば、おかしみ・ユーモアを出せるということが挙げられます。
  • キーワード:ユーモラス、ユーモア、コミカル、滑稽、おかしい、機知、頓知、ウイット
  • 使い方
  • 使い方1「パロディー」の元になる文を探す

  • まず最初に、「パロディー」をつくる元になる作品を選ぶことになります。これは、有名な文学作品、ことわざ、格言などのいろいろなジャンルから選びだすことできます。ただし、元になる文が「有名」であるという条件を満たしているという必要はあります。
  • キーワード:成句、常套句、決まり文句、慣用句、名言、名句、成語、格言、ことわざ、金言、箴言、有名、名高い、膾炙、流布、行きわたる、波及、普及
  • 使い方2「パロディー」の元にある文の「特徴」を探しだす

  • 「パロディー」を使うときには、元の作品が持っている「言いまわし」だけを借りてきます。元になる文の特色となっているものだけに注目します。
  • キーワード:定形、外形、特定、特徴、特有、文体、スタイル、リズム、律動、韻律、語路、調子、口調、特色
  • 使い方3見つけた「特徴」だけをマネて借りてくる

  • 元になる作品の「特徴」となる、注目した部分。その部分だけを取りだしてきます。ことばを「つづり=オモテ向きのカタチ」と、「なかみ=そのことばが伝える内容」に分けるとしたら。パロディーでは、「オモテ向きのカタチ」のほうだけを借りてくるということです。
  • キーワード:引用、暗示引用、借用、借りもの、写しとる、コピー、換骨奪胎、焼き直し、模作、模擬、模倣、まねる、模する、もじる、模写、似せる、似る、近似、もどき、置きかえ、ずらす、取りかえる、差しかえる、切りかえる、入れかえる
  • 使い方4マネるときには、「もじり」などを使うことになる

  • 上に書いたコトを、反対にいうなら。「パロディー」では、「なかみ=内容」は借りてきません。あくまで似せるのは、「カタチ」や「見せかけ」といった外見だけです。このような「パロディー」の条件をみたすために、いちばんよく使われるのが「もじり」とか「しゃれ」といったものになります。
  • キーワード:語路、語呂合わせ、しゃれ
  • 注意

  • 注意1盗作には注意

  • 「パロディー」は、「盗作」に近づくことがあります。ですので、このレトリックを使うときには、「盗作」になっていないかどうか注意が必要もあります。その意味で、使いかたによれば危険なレトリックになります。「オモテ向きの言葉」をまねて、「中身のメッセージ」も似せるなら。それは、「盗作」ということになります。
  • キーワード:盗作、剽窃、盗用
  • 例文を見る)
  • ページの最初にある画像は、『わいるど☆ぴっち』1巻から。

    このシーンは、野球部で合宿をしているところです。

    まず。
    「どらごんだま」と言いながら、イツカが持っている物体。これは、野球のボールに★マークがついているものです。「★1コ」書かれたものから、「★7コ」まであります。

    ここで。
    これは「ドラゴンボール」のパロディーだ
    ということに気がついてもらえなければ。それは、「パロディー」として失敗です。

    でも。「ドラゴンボール」という、とても有名なパロディーなので。失敗ということはないはずです。

    でもって。「★1個〜★7個がついている」という見せかけ。つまり、外見としては「ドラゴンボール」に似ています。つまり、借りてきてマネしています。

    ですが。その意味というか中身のほうを見てみると、これは全くちがいます。この7つのボールを拾い集めても、シェンロンは登場しません。

    というわけで。「パロディー」の説明は終わり、のような気がするのですが。
    以下には。念のため、このシーンにたどり着くまでにあった、ストーリーをカンタンにかいておきます。

    主人公は、桜庭健司。高校生。

    新しく転校してきた、健司。彼は、転校してきた高校の「野球部」に入ることになった。

    ここに問題がある。
    野球部のくせに、部員が「3人」しかいない
    ので、試合ができない。だけれども、その点は置いておくとして。問題となるのは、
    野球は「11人」でプレーするものだと思っている
    というから。かなり怪しい。そもそも「野球部」という名前はついているけれども、実体は「お茶会クラブ」なのだから。

    …と、ここまで書いてくると。
    ウチにはグローブが
    2個しかない
    ということを言った理由が、見えてきます。
    つまり、
    野球をプレーするだけの部員がいない。
    だから、グローブが2個しかなくても、
    部の活動には、影響がない
    というわけです。
  • 例文を見るその2)
  • 『呪ってあっこちゃん』48〜49ページ(猫部ねこ/講談社 コミックスなかよし)
    • あっこ(ばっ!)
    • タッくん「ええっ
    • そ それは!?」
    • あっこ「いまこそ
    • 暗黒神さまの お力を
    • 借りるとき!!」
    • 暗黒神(回想)「——あっこよ
    • これを おまえに
    • 授けよう……」
    • あっこ(回想)「これは……
    • 五芒星形(ペンタグラム)?」
    • 暗黒神(回想)「——これぞ
    • 携帯魔法陣!!
    • これで いつでも
    • ワシを召還するがよい!!」
    • あっこ「これが………」(ぱか)
    • (どきどき)
    • テッ
    • テクマクマヤコン
    • テク……
    • 暗黒神「そりゃ ちがう
    • アッコちゃんじゃ——っ」
    • (すぱーん)


    つぎの引用は、『呪ってあっこちゃん』から。

    主人公の御影あつこは、通称「あっこ」。

    「あっこ」は、暗黒呪術部を作ろうとしたり、何やらあやしげな雰囲気がただよっている女の子。

    ある日、暗黒神降臨の儀式を行うが、出てきたのは「プリティ」な暗黒神。失敗かと思いきや、それが本物の暗黒神のようだ。

    そんな中、遠足に出かける。しかし、あっこの組の生徒が乗っているバスだけ、あやしげな場所に到着。あっこが、暗黒秘薬の材料となる薬草を集めるために、この場所に誘導したらしい。

    そこで、さっきの暗黒神を呼び出そうとしているのが、引用のシーン。
    テクマクマヤコン
    というのは、どうみても携帯型の暗黒魔法陣の使い方としては間違っています。当然これは、『ひみつのアッコちゃん』のセリフのはず。
    今回は単に、コンパクトを開いたことから冗談として言っているだけでしょう。ちょうど、名前も「あっこ」と「アッコ」とで似ているし。

    しかし、『ひみつのアッコちゃん』の原作の初版は昭和40年代。そのあと3回ほどアニメ化しているみたいですが、この『呪ってあっこちゃん』は「なかよし」を読むような年齢層が読むために描かれたマンガです。そのような年齢層に、このパロディが通じるのでしょうか? いささか不安ではあります。

    それは、元となっているフレーズを知らないと、「マネをしたことで出てくる効果」を発揮したとはいえないからです。まあ、有名なフレーズであることには間違いありませんが…。

    なお、暗黒神のセリフで使われているフォントが特殊なため、引用した画像のうち、暗黒神のセリフに読みにくい点が出ています。申し訳ありませんが、右に書いたテキスト文と合わせて読んでみて下さい。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「パロディー」に近いレトリック
  • このサイトでは。
     内容
    似せる似せない
    外見似せる〈盗作〉「パロディ」
    似せない「パスティーシュ」〈無関係〉
    元の作品を「マネる」というレトリックを、
    • 「パロディ」
    • 「パスティーシュ」
    という2つに分けておくことにします。

    この分類のしかたは。おもに、
    • 『ことば遊びコレクション(講談社現代新書808)』(織田正吉/講談社)
    • 『日本語のレトリック』
    を軸として参考にしながら、
    • 『レトリック事典』
    によって補われてつくられた考えかたです。

    上に書いた図を見れば、分かっていただけると思いますが。
    • 外見が似ているけれども、その中にある内容が違う
    • →「パロディー」
    • 外見は似ていないけれども、その中にある内容が似ている
    • →「パスティーシュ」
    という分類をしてみました。

    なお。
    「パロディー」と「パスティーシュ」という2つを、とりたてて区別しないこともあります。たとえば『レトリック辞典』は、「ほぼ同じ」としています。

    まあ確かに。
    「パロディー」というのは、英語として使われていた用語です。そして、おもに文学の方面で使われていたものです。

    ですが、「パスティーシュ」は、フランス語で使われていた用語です。そして、おもに美術の方面で使われていたものです。

    そういったわけで。ことさら分類していいのかというのも悩みましたが。いちおう、2つに分類しておきます。

  • 深く知る2「パロディー」がもっている依存性
  • 「パロディー」するための元々のことばには、色々なものがあります。有名な作品のフレーズだとか、格言やことわざ、歌詞など、さまざまです。

    そこで大事なことは、元々のことばが「多くの人が知っているものだ」ということです。そうでないと、ことばの二重性によって出てくるはずの「おかしさ」「おもしろさ」を感じることはできません。

    このことは、「引用法」に近いレトリック全てに共通することです。あくまで、読み手や聞き手が「引用なんだな」と分かるものでないとなりません。そうでないと、「引用」の効果を発揮できないのです。

    「パロディ」は、「一流でよく知られているものに依存して作られている」ものなのです。
  • キーワード:依存、負ぶさる、歪める、だます、まやかし

  • 深く知る3「暗示引用」との関係
  • 暗示引用」というレトリックがあります。これは、「だれがいつ書いたのか」を書かずにに「引用」をするというものです。

    ですので。
    「パロディー」に近いレトリックは、広い意味では「 暗示引用」の一種だということができます。というのは、だれがいつ作った文章であるのかを示さないで、そのことばを使うことになるからです。

    くわしくは、「 暗示引用」のページもあわせて参照してください。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • パロディー・パロディ
  • 呼び方2
  • 模作・戯作
  • 参考資料
  • ●『日本語のレトリック—文章表現の技法—(岩波ジュニア新書 418)』(瀬戸賢一/岩波書店)
  • 「ジュニア新書」だから、若者をターゲットにしているのかと思ってしまう人がいつかもしれません。ですが、「パロディー」という項目をわざわざつくって、これだけ多くのスペースを使っている本は、なかなか見あたりません。
  • ●『古典文学レトリック事典』(國文学編集部[編]/學燈社)
  • この本も、「パロディ」という項目を1つ作って取りあげています。「古典文学」にテーマをおいているという都合上、書かれている内容が「本歌取り」に傾いている感じは否定できません。ですが、違った方面から「パロディ」というレトリックを考えてみたい。そんな考えを持っている人にとっては、とても参考になると思います。
  • ●『日本語のしゃれ(講談社学術文庫445)』(鈴木棠三/講談社)
  • どうしても「パロディ」を極めたい。そういったヒトが、まちがってこのサイトに来てしまったばあいには、この本をオススメします。[百人一首のパロディー]という項目に、いろいろ記載してあります。
  • 余談

  • 余談1文学用語「パロディー」と、芸術用語「パスティーシュ」
  • 上でも、触れたとおり。

    「パロディー」は、文学のほうに由来する用語です。

    「パスティーシュ」は、芸術のほうでつくられた用語です。

    とすると、思うに。
    もしマンガでのレトリックを考えるならば、
    • 「パロディー」→「ふき出し」部分
    • 「パスティーシュ」→「イラスト」部分
    という分けかたを、してみることができるのでは?

    そう。たしかに、そういった考えるのは、理論的には合っている。それに私(サイト作成者)でも、そのようなことができるのならば。ぜひ、やってみたいのですが。

    ですが残念なことに。
    私は、それだけの能力をもっていません。つまり「アタマが賢くないので、そこまでは手が及ばない」ということです。

    そういった都合で。
    すくなくとも今のところは、そのような分析をするのはムリです。