頓絶法:言いかけてやめる
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頓絶法 とんぜつほう aposiopesis

『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』2巻112ページ(イチハ/白泉社 花とゆめCOMICS)
  • 店長「後はユナちゃん
  • 面倒見てあげてね♡」
  • 滸(ドゴン)
  • ↑なにかが、目から発射される音
  • (耐えろ…耐えるんだ 滸)
  • 炯至「あっほとり♡」
  • 滸「わぁ このケーキ
  • なんておいしそう
  • 今スグ食べたい
  • むさぼり食いたい
  • 舐める様にして食べたい
  • 食べ食べ食食食食食
  • 食食食食食食食食食
  • 友だち達(MAX耐えてる!!)
-『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』2巻112ページ(イチハ/白泉社 花とゆめCOMICS)
  • 定義重要度3
  • 頓絶法は、言いかけてやめるレトリックです。ダッシュ(-)やリーダー(……)などによって省略を表示し、そのまま言いさしの形で文を結ぶ表現法です。それでいて、省略された部分はしっかりと何だか分かる仕組みになっています。暗黙のうちに、読み手・聞き手には内容が伝わることになります。

  • 効果

  • 効果1「気持ちの高ぶり」などによって、その人が言葉を続けられなくなったことを表現する

  • 「気持ちの高ぶり」などによって、その人が言葉を続けられなくなった。と、そういったことを表現するという効果があります。では、どんな理由で言葉を続けることができなかったか。これは、多くの理由が考えられます。「感動」「興奮」「驚き」「嘆き」「喜び」「恐怖」など、いろいろなものが考えられます。
  • キーワード:感情、感じ、情、感情的、感きわまる、感に堪えない、感動、感激、気持ちの高ぶり、意気込む、意気込み、勇む、勇み立つ、奮う、奮い立つ、奮起、発揚、興奮、高ぶる、沸く、たぎる、エキサイト、驚き、驚く、はっとする、息をのむ、驚愕、仰天、驚異、目をうたがう、嘆き、嘆く、悲しむ、悲しみ、嘆じる、感情、傷心、喜び、喜ぶ、喜ばす、うれしがる、喜悦、愉悦、歓喜、恐怖、恐れる、恐れ、怖がる、怖がらす、おびえる、おじけづく、畏怖

  • 効果2ちゅうちょや思い入れによって、ためらいが生まれたことをあらわす

  • ちゅうちょや思い入れ、羞恥心などによって、ためらいが生じた。そのような逡巡したようすを写しとることができます。
  • キーワード:ちゅうちょ、思い入れ、ためらい、羞恥心

  • 効果3「頓絶法」を使った相手を、軽べつの対象だとする

  • 「頓絶法」が、間に合わせのために使われることもあります。なぜなら「頓絶法」は、話を続けることをやめてしまうというレトリックだからです。そのような間に合わせの行動に出たばあい、これを軽べつされたりするといったことがありえます。
  • キーワード:おこる、いかる、いかり、腹が立つ、腹立つ、気にさわる、脅し、脅す、脅かす、脅しつける、おびやかす、軽べつ、軽侮、侮蔑、べっ視、侮辱、皮肉、当てつける、当てつけ、当てこする、あげ足、アイロニー

  • 効果4苦しまぎれで「頓絶法」を使い、そのまま宙ぶらりんになることがある

  • 苦しまぎれで「頓絶法」を使い、そのまま宙ぶらりんになることがあります。
  • キーワード:苦しまぎれ、心ならずも、不本意ながら、仕方なしに、宙ぶらりん、ぶらりと、ぶらぶら、中途半端、どっちつかず、未解決、棚上げ、保留、未完成、未完、不成立

  • 効果5単調を破り、アクセントをつける

  • 単調を破り、アクセントをつけるために「頓絶法」が使われることがあります。
  • キーワード:単調を破る、単純を破る

  • 効果6頓絶しなければあったはずのことばを、想像させる

  • 頓絶しなければ、そこには何らかのことばがあったはずです。その失われてしまったことばを、受け手(読み手・聞き手)の側が想像することになります。このときに余韻や余情を味わうことができます。
  • キーワード:頓絶、中断、絶つ、中絶、わざと、わざわざ、好んで、ことさら、想像、イマジネーション、思いやる、察する、想定、不確か、不確実、不正確、余韻、余情、趣き、情趣、風趣、趣向、風致、風韻、風情
  • 使い方
  • 使い方1いいさしのカタチで文を終える

  • いいさしの状態で突然、話を打ちきって終わらせる。これが基本的な「頓絶法」です。
  • キーワード:いいさし
  • 使い方2「?!」のように、感嘆符(!)で終わらせる

  • 「頓絶法」は多くのばあい、「?!」というような感嘆符(!)で終わります。
  • 注意

  • 注意1品が落ちる

  • 「頓絶法」は、使う場所によっては品が落ちることがありえます。論文などでは使わないのがふつうです。ですが、小説のようなジャンルでは、多かれ少なかれ使われています。
  • 例文を見る)
  • 引用は、『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』 2巻から。

    主人公は「滸(ほとり)」(♀)。そして、その彼氏が「炯至(けいし)」(♂)。

    この2人は、幼なじみだった。そして今、つきあっている。だけれども、この「滸(ほとり)」と「炯至(けいし)」のカップルには、とても大事な問題がある。それは、なにかというと。
    「滸(ほとり)」と「炯至(けいし)」は、子供の頃から友だちだった。
    そして子供のころは、「滸(ほとり)」のほうが「炯至(けいし)」よりも、
    断然、強かった。
    そのため、「滸(ほとり)」と「炯至(けいし)」の2人の関係は、
    「兄」と「弟」のようなものになってしまった。
    こんな流れで「炯至(けいし)」は、犯罪的にカワイク成長した。
    逆に「滸(ほとり)」は、
    犯罪的にカワイイ「炯至(けいし)」と長年いっしょに過ごしてきたために、
       異様に色欲の強い女に成り果てていた (19ページ)

    という状態に、なってしまったからです。

    で、この場面は。
    友だちの「ユナ」が、バイトしている店(喫茶店)。この店が、クリスマスで人手不足になってしまった。そこで、ユナが(しぶしぶ)喫茶店に行く。

    ならば、ユナだけがバイトに行ったのかというと、そうでありません。ユナは、その電話を受けた時、まさにクリスマスパーティーを始めようとしていたところだったのです。

    そういった流れで。喫茶店でのバイトは、友だちみんなで行くことにした。なので「ユナ」はもちろんのこと、友だちの「滸(ほとり)」や、滸の彼氏「炯至(けいし)」も、バイト先へ行った。

    バイト先の喫茶店に着く。そして、店の前でチラシを配ることになる。チラシを配る担当のヒトは、サンタクロースっぽい服装(=コスプレ?)を着ることになる。

    問題は。
    サンタクロースっぽい服装(=コスプレ?)は、女のコ用しかなかった。
    しかたなく(?)、そのサンタクロースっぽい服装(=コスプレ?)を
    「炯至(けいし)」が着る。

    といったところです。

    着替えを終えて、そのサンタクロースっぽい服装(=コスプレ?)をした「炯至(けいし)」のすがた。それがまた、悶絶するようなカワイイものだった。

    その〈異様に色欲の強い女に成り果てていた〉滸(ほとり)が、「炯至(けいし)」のカワイイすがたを見る。すると、そのカワイさによって、「滸(ほとり)」は制御不能となる。
    ただ、
    • 滸「わぁ このケーキ
    • なんておいしそう
    • 今スグ食べたい
    • むさぼり食いたい
    • 舐める様にして食べたい
    • 食べ食べ食食食食食
    • 食食食食食食食食食

    と。

    ここで「食べ食べ食食食食食食食食食食食食食食」と、ことばに詰まっているところ。これが、「頓絶法」となるわけです。「食べ」だとか「食」とかいったものは、文が完全には成りたっていません。つまり、1つの独立した文とはなっていません。ですので、この部分を「頓絶法」とします。

    なお、当然ながら。
    「滸(ほとり)」が「今スグ食べたい」モノ。「むさぼり食いたい」モノ。「捕まっても食べたい」モノ。「舐める様にして食べたい」モノ。ここで「食べたい」ものは、本当は「ケーキ」ではありません。

    ふつうケーキは「舐める様にして」食べるものではありません。また、食べたからといって「捕まる」こともないと思います(いちおう窃盗罪だけど、そんなことでいちいち逮捕はしない)。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「頓絶法」のかたち
  • 『ミントな僕ら』1巻89ページ(吉住渉/集英社 りぼんマスコットコミックス)
    • のえる「きのう あのあと
    • 牧村が帰ってきたのは
    • 12時すぎだった
    • あのおっさんと ずっと
    • いっしょにいたのかな
    • いったい あれ 誰なんだろ
    • 父親か親せき…?
    • って感じじゃ なかったよな
    • 肉親にしちゃ
    • うちとけかたが
    • 足りないっつーか
    • おっさん 妙にうれしそーだったし
    • なんか照れてたし
    • だいいち 親とかなら
    • 寮の門限破らせたりしねーよな
    • やっぱ どー考えても援助…


  • 「頓絶法」は、わりといろいろな効果のあります。たとえば、
    「感極まってことばも出ない」
    「二の句が継げない」
    「呆れて声も出ない」
    と、いろいろ考えることができます。そのようなことをふまえて、右の引用を見てみることにします。

    右の画像は、『ミントな僕ら』1巻から。

    その「のえる」が町を歩いていると、偶然、寮の同室生である牧村を見つける。しかし牧村は、「へんなおっさん」と一緒に歩いていた。そのことについて考えをめぐらせているのが、引用のシーンです。
    援助…

    と言いかけて、あ、まあ、この場合は「考えかけて」になるのかな、要するに「援助…」の部分で考えをやめてしまっています。
    しかし、この考えかけでやめた言葉は、どう考えても
    援助交際

    です。それは、誰にでもわかる仕掛けになっています。

    このように、
    考えかけて、途中でやめる
    言いかけて、途中でやめる
    というのも、「頓絶法」によって表現することができます。

  • 深く知る2ちょっとイレギュラーな「頓絶法」
  • 『神のみぞ知るセカイ』2巻142~143ページ(若木民喜/小学館 少年サンデーコミックス)
    • 桂馬「全部スキャンしちゃえば
    • 本なんか全部捨ててしまえるよ」
    • 栞「ば…ばかぁーー」
    • (……)(……)(……)
    • (……)(……)(……)
    • (……)(……)(……)
    • (……)(……)(……)
    • (……)(……)
    • (……)(……)


  • 文の終わりを「……」だとか、「-」だとかいったもので締めくくる。このようなものは、正統派のパターンにあたります。このようなスタンダードなものもありますが、ちょっと変わったタイプの「頓絶法」もあります。

    それは
    ふき出しの中身が「……。」だけしかない、というパターン。

    「……。」と沈黙を示して、そのまんま作品までもが終わってしまうパターン。(「沈黙表示」と重なる面がある)

    と、いったものです。

    たとえば、右の画像は『神のみぞ知るセカイ』の2巻。

    栞は、図書委員。そして、引っ込み思案な女の子。

    そんな栞に、桂馬は
    「本なんか
    全部捨ててしまえるよ」

    これに対して。栞は、なんとか反論したいと思う。だけれども、ことばとして言い返すことができない。

    ただ心の中で「頓絶法」を、くり返しているだけ。

    このような例をはじめとして、ふき出しでは多彩な「頓絶法」が見られます。先ほども書いたとおり、「会話文が主体となっている」という性質によるものだと思われます。

  • 深く知る3「頓絶法」と「中断法」との関係
  • 「……」と黙ってしまう「頓絶法」や「 中断法」と、語句を並べることになる「 疑惑法」。見た目には逆なのにも関わらず、意外にも近い関係にあります。

    なぜならどれも、「言葉に迷っている」という点で共通しているからです。つまり、伝えたいことを、うまく言葉することができない時の「苦しまぎれ」である点が共通しているのです。

  • 深く知る4「頓絶法」の特別な効果
  • 「頓絶法」が、ちょっと違った効果を出すこともあります。それは、「読み手に伝えようとしかけてやめる」場合です。ふつうの「頓絶法」は、ことばの上では表現していなくても、読み手には内容が伝わります。ですが、そうではない「頓絶法」もあります。

    この場合には、書き手は頓絶してしまった後で何を言いたかったのか、それが「読み手」に十分に伝わらないことになります。つまり、読者を「宙ぶらりん」の状態にする。もう少しいうと、「宙ぶらりん」にするためにワザと「頓絶法」を使うことがあるのです。

    -「頓絶法」は、こんなときにも利用されることがあります。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 頓絶法・頓絶
  • 呼び方4
  • 黙絶法・中絶法
  • 呼び方3
  • 絶句法・アポシオピーシス・アポジオペーシス
  • 呼び方1
  • 話中頓絶
  • 参考資料
  • ●『言葉は生きている-私の言語論ノート-』(中村保男/聖文社)
  • 英語での「頓絶法」を書きつつ、「頓絶法」の例をあげています。
  • 余談

  • 余談1マンガのふき出しでは、いがいと「頓絶法」が多い
  • 「ふき出し」では、わりと多く見かけるレトリックです。というのは、この「頓絶法」というレトリックは、「話のやりとり」つまり「会話」のなかで登場するものだからです。会話文がメインとなる「ふき出し」では、たくさん出てくるのが自然です。