省略法:ことばを「省略」するレトリックの総称
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省略法 しょうりゃくほう ellipsis

『あずまんが大王』2巻59ページ(あずまきよひこ/角川書店 電撃コミックス)[ドラフト指名]

3学期修了
  • 大阪「ゆかり先生は2年生の担任に
  • なるんですかー?」
  • ゆかり先生「そーよ」
  • ちよちゃん「また担任に
  • なってほしいです」
  • 大阪「私もーー」
  • ゆかり先生「あ ちよちゃんは戦力に
  • なるから狙ってるわよー」
  • ちよちゃん「わーい」

--沈黙--

-『あずまんが大王』2巻59ページ(あずまきよひこ/角川書店 電撃コミックス)
  • 定義重要度5
  • 省略法は、ことばを「省略」するレトリックの総称です。


このサイトでは、この「省略法」を「省略」関係のレトリックのトップページとします。そして、より具体的なレトリック用語については、それぞれのページに移動して見ていただきたいと思っています。
  • 効果

  • 効果1文を引きしめることができる

  • ムダを省いて文を引きしめる。そのことで、文に注目させると同時に、緊張感を持たせるのに役立ちます。
  • キーワード:引きしめる、締める、締まる、引きしまる、しぼる、張りつめる、緊張、約める、緊縮、(要点を)際だたせる、引き立つ、目立つ、図抜ける、ずば抜ける、ことばの経済性

  • 効果2余韻・余情を持たせることができる

  • 「省略法」が使われた文では、残ったフレーズだけで、内容を推しはかることになります。そのため、余韻のある余情をもったものを生むことができます。
  • キーワード:余韻、余情、趣き、情趣、興趣、風趣、風情、情味、味わい、意味のふくらみ、丸み、深み、深い、奥深い、深奥、推量、推しはかる、くむ、くみ取る、察する、推察、推測、詩、詩歌、言外、暗示、ほのめかす、匂わせる、示唆

  • 効果3ムダな部分をけずり、簡潔な文にすることができる

  • 送り手(書き手・話し手)と受け手(読み手・聞き手)とのあいだで、あたりまえだとおもわれるモノゴト。そういったものについては、切り落として文を短くすることができます。
  • キーワード:簡潔、手短、手軽、カンタン、簡略、簡約、簡素、シンプル、冗長度を下げる、手間を省く、明瞭、明らか、はっきり、定か、ありあり、まざまざ、明晰、瞭然、一目瞭然、明白、明々白々、鮮明

  • 効果4要点だけを抜き出して、力強い表現を作る

  • 要点だけをピックアップして、重要な部分だけを残す。そのことで力強い、語勢を強めた文章が出来上がります。
  • キーワード:力強い、強い、強力、強大、力動、語勢、印象深い、焼きつける

  • 効果5会話など、くだけた場面で使われる

  • くだけた場面でも、たくさんの「省略法」が使われます。これは、会話をしているどうしが家族だったり友人だったりといった近い距離にあるため、「あえて言う必要がない」という部分が大きくなるためです。
  • キーワード:くだけた、開ける、軟化、親しい、近しい、心やすい、遠慮無い、気が置けない、仲よい、むつまじい、なごやか、親愛、親密、生き生きとした、明るい、のびのび、明朗
  • 使い方
  • 使い方1「復元可能な限度で」省略をする

  • なんでもかんでも削れば、「省略法」になるとは限りません。ふつう受け手(聞き手・読み手)の側で、元どおりのカタチに復元できるものを「省略法」として扱います。
  • 使い方2「要点を押さえて」省略をする

  • 要点を押さえてながら、必要ない部分を削る。そのことによって、ポイントを正確についあt文を作ることができます。
  • キーワード:要点、ポイント、主眼、重点、要、勘所、急所、あいまいにならない、確か、確実、正確、明確、的確
  • 使い方3その他スペースが限られてい場面に応じて、省略をする

  • たとえば「電文」では、そんなたくさんの文字を送ることはできません。また、本のタイトルを決めるときにも、(奇抜なタイトルを狙うのでなければ)ふつう長さには限度があります。その使われなかった部分が、「省略法」によって省略された部分というわけです。
  • キーワード:電文、見出し、事典
  • 注意

  • 注意1省略のしすぎに注意が必要

  • 省略をしすぎると、相手側にメッセージが伝わらなくなります。つまり受け手ほうで、何が言いたいのか分からないと思われてしまうことが考えられます。ですので、省略のしすぎは禁物です。
  • キーワード:あいまい、不明瞭、不鮮明、ぼんやり、漠然、おぼろげ、もうろう、模糊、コミュニケーション、伝わる、伝える、伝達

  • 注意2かといって、何も省略しないのも冗長になる

  • たとえば、話をするとしても。正式な場面であれば省略しなくても、日常会話であれば省略する部分が出てきます。もしも日常会話で、省略することなく一から十まで話をしようとすれば、冗長で散漫な文になってしまいます。そのばあいは、省略することが自然なのです。
  • キーワード:冗長、繁雑、煩雑、煩瑣、わずらわしい、煩多、面倒、厄介、冗漫、散漫、無神経、対面、向きあう、向かいあう、対する、面する、会話、言い交わす、話しあう
  • 例文を見る)
  • 例文は、『あずまんが大王』2巻から。

    登場人物は、「ちよちゃん」「ゆかり先生」、それに「大阪」(ここの「大阪」というのは、地名ではなくあだ名です)。

    3学期が修了。いままで1年生で「ちよちゃん」と「大阪」たちの担任だった「ゆかり先生」は、2年生でも担任になるという。つまり「持ち上がり」というわけです。

    そこで「ちよちゃん」と「大阪」は、2年生でも「ゆかり先生」の担任のクラスに入りたいと言った。
    ですが、ゆかり先生は「ちよちゃんは戦力になるから、狙ってるわよ」と言う。それだけ。

    で、沈黙。

    つまり、「大阪」については、何も言っていない。何も言っていないはずなのに、その真意が読みとれる。つまり、「大阪は戦力にならないと思うから狙っていない」ということが伝わってくる。この「言ってはいないはずなのに、言いたいことが伝わってくる」というところが、「省略法」の重要なポイントです。

    なお、このばあい。「沈黙」と書いてある以上は、たぶん「沈黙法(= 黙説法)」なんだろうと思います。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「省略法」に関連するレトリック用語
  • 「省略法」と関わりのあるレトリック用語を、いくつか挙げてみます。

  • 深く知るa「省略法」と「ことわざ」「格言」などとの関係
  • ことわざ・諺」や「 格言」は、いちばん大事な部分以外は、切り捨てて表現されます。ですので、「省略法」の代表的なレトリックとなります。

    また、「 名詞止め」「体言止め」といったレトリックでは、文末に来るはずの述語(動詞・助動詞)が取りのぞかれます。その結果、文末が名詞になります。よって、取りのぞかれた述語(動詞・助動詞)は省略されたことになるため、「省略法」が使われたと考えることになります。

  • 深く知るb「省略法」と「広告」「標語」などとの関係
  • 「広告」「標語」や「モットー」「スローガン」といったもの。これらについては、「省略法」に含まれます。ある程度は短くないと、その役割が果たせないからです。

  • 深く知るcそのほかの、「省略法」に含まれるレトリック用語
  • この「省略法」を細かくわけると、つぎのようになります。 かなり長いです。
    • 語頭音消失 : 「アルバイト」が「バイト」になるような、言葉の最初の部分の省略
    • 語尾音消失 : 「テレビジョン」が「テレビ」になるような、言葉の最後の部分の省略
    • 語中音消失 : 「パトロールカー」が「パトカー」になるような、言葉の途中の部分の省略
    • 脱落 : リズムなどの都合でおこなわれる、助動詞などの省略
    • 主辞内顕 : 本来あるべきはずの主語が欠落する省略
    • 断叙法 : 接続する言葉の省略
      • 連辞省略 : 節と節の間につけるべき接続詞の省略
      • 要語省略 : 言葉と言葉の間につけるべき接続語の省略
    • 情報カット : 言わないでもわかるシーンの省略
    • 場面カット : 次に書かれるべき場面がそっくりなくなる省略
    • 警句 : 人生の機微などを簡潔に言うための省略
    • 黙説法 : ことば自体は消されるけれども、その枠組みを残しておく省略
    • 頓絶法 : 言いかけてやめることによる省略
    • 懸延法 : 言いかけてやめようとして、やっぱり言うという省略
    • 名詞止め : 述語などを書かないために、文末が体言になる省略
    • 名詞止め : ただ名詞を投げ出しただけになっている省略
    • 沈黙表示 : 文が完結しているのにもかかわらず、沈黙の存在を示す省略
    • 省略暗示 : 省略がないことを言うことによって、逆にその存在を示す省略
    • くびき語法 : ならんでいる文のうちで、そっくりの部分を取りだして、ひとくくりにする省略
    • 異義復言
    • 兼用法 : ひとくくりにした片方の意味と、もう一方の意味とが違うもの
    • 異質連立 : 同じことばを、違った意味でくり返すレトリック
    • 交差再説

    『日本語レトリックの体系』をメインの参考にして、まとめてみました。ちょっと改変しましたが、「省略法」にふくまれるレトリックがならんでいます。

    で、「省略」のグループのトップとなるのが、このページというわけです。

  • 深く知る2「省略法」と「含意法」との関係
  • この引用については、「 含意法」とするほうがいいのかとも悩みました。というのも、先ほども書いたように、この例文は「言ってはいないはずなのに、言いたいことが伝わってくる」ものです。そしてそれは、ことばに含みをもたせているという意味です。とすれば、「 含意法」と考えることもできるからです。

    しかし結論としては、「省略法」ということにしておきます。

    なぜなら「省略法」というものは、同時に「含意」という役割を果たしているからです。つまり、「省略法」などでは、省略された部分を読み手が推測することになります。ですので多かれ少なかれ、「省略法」には、おもてには出ていない部分があるのです。そしてそれは、「省略法」というものが「 含意法」という性質をもっていることを示しているからです。

    このような理由で、引用したものについては「省略法」としておくことにします。

  • 深く知る3「省略法」の弱点
  • この「省略法」に属するレトリックたちにも、弱点があります。それは「省略しすぎると文の意味がナゾになる」ということです。つまり、あまりにことばを削りとってしまうと、残った部分では十分に言いたいことを伝えることができないわけです。

    そういったことで、この「省略法」のグループのレトリックには、限度というものが大切になります。ことばはあくまで、読み手・聞き手にたいして伝わる程度に少なくしなければなりません。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 省略・省略法
  • 呼び方3
  • 略除・略除法・エリプシス
  • 呼び方1
  • 語句省略・語省略・省略語法
  • 参考資料
  • ●『日本語修辞辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • 「省略法」について説明してある本としては、こちらが目立ってくわしい。
  • ●『英語の仕組みと新修辞法——ロレンスの場合』(田中実/鳳書房)
  • 英語の文を例にとって、「省略」への説明があります。英文の「省略法」が知りたい人には、こちらが役に立つのではないかと思います。