擬人法:人間でないものを人間にたとえる
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擬人法 ぎじんほう personification

『090えこといっしょ。』1巻23ページ,31ページ(亜桜まる/講談社 少年マガジン・コミックス)
  • えこ「はじめましてっ携帯電話です
  • 名前は まだありません」
  • —(中略)——
  • えこ「これ…
  • どうかな…?」
  • (ヒョコ
  • シャコ シャコ)
  • ヒロシ(アンテナ?
-『090えこといっしょ。』1巻23ページ,31ページ(亜桜まる/講談社 少年マガジン・コミックス)
  • 定義重要度5
  • 擬人法は、人間でないものを人間にたとえるレトリックです。つまり、本当なら人間ではないものを、人間っぽく扱うというものです。

  • 効果

  • 効果1生き生きした文を作る

  • 動物や植物などが、話をする。すると、楽しさのある生き生きした文になります。
  • キーワード:楽しい、面白い、軽快、心地よい、うきうき、わくわく、生き生き、のびのび

  • 効果2発想の転換を、はたらきかける

  • 人間ではないものを、人間に見立てる。そうすると、聞き手=読み手が考えもしなかったものになるはずです。なので「擬人法」には、いままで考えもしなかった方向から見ることを働きかける、という効果があります。
  • キーワード:発想、考えつく、思いつき、着想、考え出す

  • 効果3理解しやすくする

  • 「擬人法」は、人間ではないモノを人間にたとえます。なので、ふつうは「もっと分かりやすくする」効果があらわれます。
  • キーワード:分かる、察する、解する、受けとる、通じる、飲みこむ、納得する、うなづける、明らか、はっきり、明瞭、明確、確か、確実、きちんと、きっちり

  • 効果4平板ではない表現にする

  • たいていのばあい。強めたり弱めたりするところがない文章は、おもしろくありません。なだらかな平板な言いまわしは、好まれません。そこで「擬人法」を使うことによって、強めるところを作りだすことができます。
  • キーワード:生気、気力、心意気、元気、気合い、意気込む、奮起する、張り切る、高揚

  • 効果5親近感を持って読んでもらう

  • かたくるしい文を、進んで読む人は少ないと思います。なにか必要があれば別だけれども、ふつうは避けられるはずです。そこで、「擬人法」を使う。すると読者は、親しみをもって読みんでいくことができます。
  • キーワード:親しみ、うち解ける、親近
  • 使い方
  • 使い方1人間に専用のことばを、自由に使う

  • ことばの中には、人間に対してだけしか使えないものが山ほどあります。「書く」「解く」「おどる」…。こういったものは、ふつう人間にしか使いません。それを、あえて「人間以外のモノ」の使うことで、「擬人法」が生まれます。
  • キーワード:自由、思いのまま、縦横無尽
  • 使い方2思考・感情のあるものにたとえる

  • ものごとを考えたりするのは、人間だけができるものです。動物のばあいでも、それほど複雑なこと考えることはできません。植物なら、なおさらです。そういったわけで基本的には、人間以外のモノが「なにか考えている」様子を示すことによって、「擬人法」を使うことができます。
  • キーワード:思考、考える、感情、気持ち、感じ、心持ち、気分
  • 注意

  • 注意1わりと平凡ということもある

  • せっかく、「擬人法」というレトリックを使ってみても。じつは、案外ふつうの文ができあがったりしていることもあります。これは「擬人法」が、ふだん何気なく使っている表現だというところに原因があります。
  • キーワード:いつも、平常、通常、ふだん、穏やか、平静、つつがない

  • 注意2抵抗感が生まれるものもある

  • 英語などでは、文法どおりの言いまわしとして「擬人法」が使われることがあります。「無生物主語」と呼ばれているヤツです。ですが、もともと日本語には「無生物主語」というものはありません。そのため、日本語とつかっているときに人間以外のモノを主語におくと、バタ臭いというフンイキを生みだすこともあります。
  • キーワード:抵抗感、バタ臭い
  • 例文を見る)
  • このページの最初に載せた画像は、『090えこといっしょ。』1巻から。

    主人公は、「茶の水ヒロシ」。
    ヒロシは、壊れたケータイがゴミとして捨てられているのを見かけた。そして、この壊れたケータイを修理してもらうことにした。

    ケータイの店でも、「新しいのを買ったほうが安くてすむ」と言われた。でもヒロシは、その拾ったケータイを直すことにしてもらう。

    で、その修理が終わったあと。ヒロシの家に、ケータイが配送されてきた。配送されてきたのはいいんだけれども、その大きさに問題があった。ケータイを入れるにしては、考えられないような大きさの段ボールが配達されてきたのです。

    おそるおそる、、バカでかい段ボール箱をあける。すると、人間…? 一見すると人間だとしか思えないものが、家に届いてしまった。

    すると、段ボールの中から、人型マシンが出てきた。そして、自己紹介。
    • 「はじめましてっ携帯電話です
    • 名前は まだありません」
    とのこと。なお、このあとで「えこ」と名づけられることになる。

    それはさておき。「えこ」は、なにやら「ケータイっぽい」機能を見せてくれる。たとえば、マナーモードにすると「体がふるえる」とか。

    で、そうやって見せてくれる「機能」の1つ。それが、引用してきた画像の下半分にあたるところ。

    たしかに。アンテナがついている。そして、アンテナがのびる。これは、ケータイについている機能だといえる。ただし、左耳の上からアンテナが出たり入ったりするのは、ふつうではない。

    それでも、やっぱり「ケータイ」にすぎないのです。「人間っぽいカタチをしている」という、大きな特徴があるとしても。
  • 例文を見るその2)
  • 『ペパーミント・グラフィティ』39〜40ページ(柊あおい/集英社 りぼんマスコットコミックス)
    • 咲良「フィルムが言ってたもん
    • 『好きで 好きで
    • たまらなくて
    • 8ミリ撮ってる』って」
    • 加賀「なに バカ言ってんだよ
    • フィルムが喋るか!!」
    • 咲良「きれいだったよ
    • この間の画面」


    すぐ右のに引用した画像は、『ペパーミント・グラフィティ』から。

    主人公は、咲良。

    その咲良の友だちが、自主制作の映画に女優としてスカウトされた。その関係で、咲良も自主制作に加わることとなった。

    この自主制作で撮影をやっているのが、加賀という男の子。加賀は、ふつうのビデオカメラではなく、8ミリフィルムでの撮影にこだわっていた。その8ミリで撮っている姿を見ての、咲良の感想。それが引用のシーンです。
    • 咲良「フィルムが言ってたもん
    • 『好きで 好きで
    • たまらなくて
    • 8ミリ撮ってる』って」
    という咲良の言葉が「擬人法」にあたります。親切なことに、なぜ「擬人法」にあたるのかについてまで説明されています。つまり、
    • なに バカ言ってんだよ
    • フィルムが喋るか!!
    なのです。フィルムは人間ではありません。だから言葉を話してしゃべったりはしません。加賀が言っているとおりです。
    それにもかかわらず「フィルムが言ってた」という表現。ここが「擬人法」にあたります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「擬人法」と、ほかのレトリックとの関係

  • 深く知るa「隠喩」との関係
  • このページの、いちばん最初にも書いたように。
    「擬人法」というのは、人間以外のモノを人間として「見立てる」ものです。それにたいして「隠喩」は、あるモノを何かべつのものに「見立てる」ものです。

    なので、ようするに。
    「擬人法」というのは、「隠喩」に含まれるものです。言いかえれば、「隠喩」に含まれるパターンの1つとして、「擬人法」があるわけです。

  • 深く知るb「寓言」「寓話」との関係
  • 「擬人法」に似たレトリック用語として、「 寓言」「寓話」といったものがあります。

    ですが。
    この「 寓言」「寓話」といったレトリックは、「たとえ」の長さ・短さの違いぐらいしかありません。何度も「擬人法」が重ねて使われたら、だんたんと「 寓言」「寓話」に近づいていく。とまあ、どういった程度の区別に過ぎません
  • キーワード:寓話、たとえ話、寓言

  • 深く知るc「ことわざ」「慣用句」などとの関係
  • 「必要は発明の母」などのように、「擬人法」を使った「 成句・イディオム」も多く見られます。「ことわざ」「慣用句」「名言」「格言」…。そういったジャンルでは、「擬人法」が大いに活躍しています。

    たとえば。
    「災害は忘れた頃にやってくる」とはいっても、「災害」が向こうから歩いてくるわけではありません。「会社が息を吹き返す」とはいうけれども、「会社」に人工呼吸をしたわけではありません。それはつまり、「擬人法」なのです。
  • キーワード:成句、常套句、決まり文句、慣用句、名言、名句

  • 深く知るd「活喩法」との関係
  • 「擬人法」の定義については、多少の「ゆらぎ」があります。これは、「 活喩」という、意味の似たレトリックがあるためです。参考書によって、この2つをどのように区別すればよいか、考えが一致していません。 ですが、ここでは、
    • 擬人法 : 人間でないものを、人間であるかのようにたとえる場合

    • 活喩 : 生命のないものを、生命があるかのようにたとえる場合
    という区分けをしておくということにします。ですので、
    • 有情化
    と呼ばれるレトリックについては、ページ作って項目をたてることはしないでおきます。

  • 深く知るe「呼びかけ法」との関係
  • また。
    呼びかけ法」とか「頓呼法」といったレトリックがあります。これは、ことばを使う本人ではなく、話しをしている相手を人に見立てるものです。

    これについて、このサイトでは、という名前で統一しておきます。「頓呼法」については、「 呼びかけ法」という名前で扱うことにします。

  • 深く知るf「擬物法」との関係
  • 「擬物法」というのは、「人間のことを人間以外に見立てる」ものです。「擬人法」は「人間以外のものを人間に見立て」ます。ですので、「擬人法」と「擬物法」とは、反対の意味をもっていることになります。

    ですが。
    よく目にするのは、「擬人法」のほうです。「擬物法」よりも「擬人法」のほうが、かなり多く使われます。

    この原因は。ことばが、たいていのばあい「人間」のためにつくられているところにあります。

  • 深く知る2「擬人法」に近いジャンルとの関係

  • 深く知るa「童話」「おとぎ話」との関係
  • 「童話」とか「おとぎ話」というジャンルは、よく「擬人法」を使います。

    例をとして、動物や植物が「話をしたり」することを考えてみる。すると現実には、動物や植物は「会話をする」わけがない。けれども「童話」や「おとぎ話」では、ごくぶつうに「会話をする」。

    踏みこんで書くならば。「童話」とか「おとぎ話」には、ほとんどのものが「擬人法」を使っていると考えることができます。
  • キーワード:童話、おとぎ話

  • 深く知るb「詩」との関係
  • 「擬人法」は「詩」というジャンルでも、よく使われます。

    これについては。さきほど「童話」「おとぎ話」のところで書いたことが、そのまま当てはまります。
  • キーワード:詩

  • 深く知るc「神話」との関係
  • 「神」でも「仏」でもいいのですが。
    そういった、ヒトの力が及ばないものについては。ホントなら、書き記すことはできないはずです。

    けれども、たいていのばあい。
    そういった、神仏がどのようなことをしたのかということについては「擬人法」で語っていくことになります。つまり、ヒトの動作を使って伝えることで、なんとか神仏をいうものをあらわそうとするわけです。
  • キーワード:神仏、神、神様、天神、地神、仏

  • 深く知る3検閲をのがれるための「擬人法」

  • 深く知るa検閲をのがれるため
  • 検閲というのは、どこにでもあります。そして、いつの時代にもあります。そして、その検閲にひっかかってしまうと、考えや主張をあらわすことができません。

    そこで。
    そういった検閲から逃れるために、「擬人法」を使うという手段があります。一見しただけでは、世の中を批判したものだとは思えない。けれども、よくよく読んでみると諷刺がきいた文になっている。とまあ、そういうことができるわけです。
  • キーワード:隠す、くらます、隠蔽、潜める、韜晦
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 擬人法・擬人
  • 呼び方2
  • パーソニフィケーション・プロソピーア・擬人化
  • 参考資料
  • ●『レトリック・記号etc.』(佐藤信夫/創知社)
  • この「擬人法」について、最もページ数を使って説明してある本ではないかと思います。
  • ●『比喩表現の理論と分類』(国立国語研究所/秀英出版)
  • 「擬人法」「 活喩」「 擬物法」「結晶法」の4つのレトリックを、パターンに分けて考察しています。 4種類のレトリックそれぞれが、どれくらいまで適用範囲があるものなのか。それを知る手がかりになります。ただしこの本は、600ページ以上もある分厚い本です。「擬人法」については、「第2章第1節第4段」に書かれています。
レトリックコーパス該当ページへ
  • 余談

  • 余談1「人間のカタチをしたロボット」or「ロボットのカタチをした人間」
  • 「人間のカタチをしたロボット」or「ロボットのカタチをした人間」
    というのは、ことばの違いでしかない。
    ということなのですが。

    まず。「人間のカタチをしたロボット」を考えてみる。これは、「人間ではないロボット」がもともとのカタチ。そして、そのカタチが「人間」ぽくなっている。つまり「擬人法」ということになる。

    つぎに。「ロボットのカタチをした人間」のほうに目をうつす。こちらは「人間」というものが原型。そして、そのオプションのおかげで「マシン」っぽくなっている。こちらは「擬物法」ということになる。

    しかしながら。
    「もともとのカタチ」と「見た目のすがた」という2つは、そんなに簡単に区別できるモノとも思えない。

    単に、ことばの使いかたが異なっているだけで、実質的には同じようなことだと考えます。