成句・イディオム:複数語を1つにまとめて意味を作る
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成句・イディオム せいく・いでぃおむ idiom

『ながされて藍蘭島』2巻29〜31ページ(藤代健/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • すず「ねぇー行人 怖くないの?
  • それオバケ なんだよ〜」
  • 行人「何言ってんの
  • この世の中に
  • ユーレイだの 悪霊など
  • そんな非科学的な
  • ものは……
  • 決して存在しない!!」
  • おばけ「ばけぇ!?」
  • ↑存在の全否定
  • 行人「『幽霊の正体見たり 枯れ尾花』
  • って 言ってね
  • どんな不思議な
  • ものでも 正体は案外
  • どうってことない
  • モノなのさ」
-『ながされて藍蘭島』2巻29〜31ページ(藤代健/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • 定義重要度
  • 成句・イディオムは、2つ以上の単語が結びついて、ひとかたまりとして扱われるもののことをいいます。
    このページでは、慣用として使われる表現の全てにあてはまることが書かれています。ですので、それぞれのレトリック用語が持っている細かい違いについては、それぞれ個別のレトリック用語のページをご覧ください。

  • 効果

  • 効果1短いことばで伝えることができる——簡潔

  • 「成句・イディオム」は、短い言いまわしになっています。このため、ことばを簡潔にしながら、相手に考えを示すことができます。
  • キーワード:簡潔、手短、簡約、短い、イディオム<

  • 効果2少なくとも必要なことを、伝えることができる——必要最小限

  • 「成句・イディオム」は、使われる場面や状況が決まっています。たしかに「決まっている」とはいっても、どのくらい使うシーンが限られているかについては、幅があります。ですが、今の状況に合ったことを無難に伝えるのに役立ちます。
  • キーワード:慣れる、言い慣れる、呼び慣れる

  • 効果3凝らないで使うことができる——固定的

  • ヒトというのは、自分の考えを相手に伝えるために、いろいろ苦労します。どうやったら、もっとよく相手に思いをあらわすことができるか、考えはじめたらキリがありません。ですが「成句・イディオム」は、もともとカタマリとして一体となっている表現です。そのため、かたまっている以上は「表現に悩む」ことができません。そういったわけで、あまりアタマで考えずに相手にことばを発信することができます。
  • キーワード:固定的、定まる、決まり文句
  • 使い方
  • 使い方1ようするに「成句・イディオム」を使えばいい

  • 「成句・イディオム」を使った文をつくるのには、それほど苦労しないと思います。たしかに外国人の方が日本語を学ぶときには、「ことばの慣習」にかかわる「成句・イディオム」は苦労する分野だともいわれます。ですが、ふだん使っているのが日本語だという方には、とりたたて問題があるとは思いません。
  • 注意

  • 注意1慣用化によって生まれた意味だけが、残っている

  • たとえば、「手を焼く」という「成句・イディオム」を考えてみる。すると、この「手を焼く」というのは、「トラブルを処理するのに苦労する」というような意味です。逆にいえば、「火で手をやけどする」といった意味では滅多に使われないということです。ですので「成句・イディオム」によってつくられたことばは、もはや慣用化してできたことばの意味だけを持ちあわせていることになります。
  • キーワード:社交辞令、社会的規範、規準、ルール、規則、決まり、慣用表現、慣用語、慣用、慣用句

  • 注意2意味が流動化する

  • この「成句・イディオム」は、ときどき意味を大きく変えることがあります。「犬も歩けば棒に当たる」という慣用句。これは、もともとは「時には運にめぐまれることがある」という意味をもっていまいた。ですが最近では、「でしゃばって何かをすると、わざわいが起きてしまう」というような意味に変わってきています。

  • 注意3使うことのできるシーン・場面は、かなり限られている

  • 「成句・イディオム」がピッタリ当てはまる状況になるという可能性は、少ししかありません。ですので「ことわざ・諺」を使うことのできるシーンを仮想してみるというのは、なかなか難しいことです。
  • キーワード:状況、場面、シーン、情景、場景
  • 例文を見る)
  • 引用した画像は、『ながされて藍蘭島』2巻から。

    主人公は、行人(いくと)。[[br]行人は、家出をした。そして、とある船に乗った。
    …だけれども行人が乗った船は、ものすごい嵐に遭う。そして嵐のせいで、海に投げ出されてしまう。で、何日も漂流生活をおくることになってしまった。

    その漂流生活の果てに行人は、とある島に流れ着く。島の名前は、「藍蘭島(あいらんとう)」。

    行人(いくと)は、少しずつだんだんと「藍蘭島」になれてきた。けれども、1つだけ理解できないモノがあった。それは、「動物や植物が、コミカルな2頭身キャラだ」ということ。

    そんななかで、行人(いくと)たちは「自称:オバケ」に出くわす。でも、行人(いくと)は、科学的に証明できないことには、納得できない性分らしい。

    そこで、目の前の「自称:おばけ」という存在も科学的に理論づけようとする。そこで行人(いくと)は、「オバケ」などというのは存在しないという「自分の考え」を言うことにする。

    そこで使っているのが、「成句・イディオム」というレトリック。
    『幽霊の正体見たり 枯れ尾花』って言ってね
    といっている。つまり、「一見オバケのように思えても、実際には、たわいもないことだ」ということばを引きあいに出してくる。このことによって、「オバケなんて存在しない」という行人(いくと)の考えを支える材料にしている。

    これが、「成句・イディオム」を使うことによる効果です。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「成句・イディオム」というレトリックの特徴
  • 「成句・レトリック」というレトリック用語。この用語について、このサイトでは「2つ以上の単語が、ひとかたまりとして扱われるもの」と定義しました。

    この定義には、つぎの3つのポイントがあります。

  • 深く知るa2つ以上の単語が結びつきで成りたつ
  • ふつうの単語というのは、1つ1つが独立して扱われます。けれども「成句・イディオム」は、違います。「成句・イディオム」のばあい、2つ以上の単語をセットにして扱うことになります。

    たとえば、「腰を折る」というもの。これは、「腰」+「を」+「折る」という構造になっています。ですが、ふつう「腰を折る」という組み合わせで使います。1つ1つの単語がどういう意味を持っているかということは、無視されます。このようなものは、2つ以上の単語が結びついているので「成句・イディオム」ということができます。

  • 深く知るb単語どうしを切り離せない
  • 上に書いたこと。それを逆の見かたをすると、「セットになってしまったので、もともとあった1つ1つの単語に戻すことはできない」ということでもあります。

    「腰を折る」という「成句・イディオム」で説明すると。ひとたび「腰を折る」という「成句・イディオム」が作りあげられる。すると「腰」・「を」・「折る」という3つの単語に、分解ができなくなるというわけです。

  • 深く知るcもともとあった単語からは、考えられない意味を持つ
  • このページの最初に引用した、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というフレーズ。これにかんしていえば、フレーズをつくりだしている単語の意味が、かなり残っています。

    ですが、たいていの「成句・イディオム」のばあい。
    かりに、「成句・イディオム」を単語1つ1つに分解してみると。それは、ことばの意味が成りたたなくなります。

    くわしくいえば、
    • もしも単語どうしを離してみると、ふつうではあり得ない意味になる
    • (例)「手を焼く」を分けてみると、「手」が「焼ける」ということになってしまう。
    • もしも単語どうしを離してみると、意味が180度変わってしまう
    • (例)「負けず嫌い」は、「負ける」+「ず(否定)」+「嫌い」となる。そのため「負けないのがキライ」だということを言っていることになる。
    • 単語どうしを離すと、意味不明になる。
    • (例)「目をむく」を言いまわしは、それぞれ離してみると「目」が「剥ける」ということになる。だけれども、「目」が「剥ける」という状態は「意味不明」としかいいようがない。
    のどれかになります。

    気にとめておかなければイケナイこと。それは、
    「成句・イディオム」とされることばの意味は、その「成句・イディオム」の要素となっている1つ1つの単語と、かけ離れている。
    ということです。

  • 深く知る2「成句・イディオム」に含まれるレトリック用語
  • 「成句・イディオム」に含まれるレトリック用語は、たくさんあります。それは言いかえれば、「成句・イディオム」と同じようなレトリック用語の数が多いということです。

    では、ナゼ「レトリック用語がたくさんあるのか」。その理由は、「だれにでも分かるような、ハッキリした境界線を引くことができない」というところにあります。境界線をつけるのが、あまりうまくいかない。うまくいかないので、いろんな人が境界線の引き方にチャレンジをした。結果、ぜんぜん統一性のないレトリック用語だけが、どんどんつくられていった。…と、そういったことです。

    そこで、このサイトでは実験として。
    3つの大きなパターンに分けることを提案してみます。それをまとめたのが、下に書いた表です。
     〈「ことわざ」グループ〉〈「格言」グループ〉〈「慣用句」グループ〉
    あてはまる
    レトリック用語
    ことわざ・諺(adage)
    寓言(parable)
    寓話(fable)
    格言(maxim)
    金言(gnome)
    箴言(proverb)
    警句(aphorism)
    故事成語(-)
    慣用句(collocation)
    あいさつことば(-)
    決まり文句(cliche)
    話し言葉として使いやすいか?
    本来のモノとは関係ないことを
    引きあいに出しているか?
    古くから伝わっている言いかたか?
    具体的な例を示しているか?
    起源をたどることができるか?どちらもある
    教訓のような行動の基準となるか?
    何か主張したいときに根拠となるか?
    決まり文句は長いものか?
    諷刺や皮肉をもっているか?

    の記号は、サイト作成者がもっているイメージで勝手につけました)

  • 深く知る3そのほか、「成句・イディオム」のもっている特徴
  • 以下、「成句・イディオム」が持っている特徴を書いておきます。
    でも、少し触れたことを書くことになります。ですが、こちらのほうでは詳しい説明がしてあります。

  • 深く知るa2つ以上の単語が結びついて、ひとかたまりとして扱われる
  • ふつう単語というのは、1つ1つの独立しています。ですが「成句・イディオム」となると、事情が違ってきます。この「成句・イディオム」は、2つ以上の単語が結びついてカタマリとして扱われるのです。

  • 深く知るb2つ以上の単語が結びついて、新しい意味を持つ
  • 「成句・イディオム」というのは、「2つ以上の単語が結びつくことで、別の新しい意味が生まれる」というレトリックです。ここでポイントとなるのは、「新しい意味をつくりだす」という点です。

  • 深く知るc2つ以上の単語が結びついて、離すことができない
  • いちど結びついた言いまわしは、切り離すことができなくなっています。もしも切り離すことを考えたばあい、「意味不明」になるか、または「めったに起きないことを表現する」ことになります。

  • 深く知るd結びつく前にあった1つ1つの単語とは、意味が大きく違う
  • 2つ以上の単語が「結びつく前」の意味と、現実に「結びついた後で生まれた」意味。この2つは思いもつかないほど大きく異なることになります。ほとんどの場合、予測するのはムリです。

  • 深く知る4「成句・イディオム」と関係のあるレトリック用語
  • 「成句・イディオム」と関係あるレトリック用語を、いくつか書いておきます。

  • 深く知るa「慣用表現」や「慣用的表現」との関係
  • まず、「慣用語句」とか「慣用的表現」ということばがあります。これと「慣用句」との区別について、書いておきます。

    「慣用語句」とか「慣用的表現」というのは、「慣用句」よりも広い意味で扱われています。このサイトで〈「慣用句」グループ〉と呼んでいるモノに近いものです。ただし、この「慣用語句」「慣用的表現」については、厳密な意味での言語学の用語には当たらないようです。

  • 深く知るb「定型句」との関係
  • あまり一般的ではない用語ですが、「定型句」と呼ばれるモノがあります。この「定型句」の呼ばれるもののポイントは、次の3つです。
    • 「かなり歴史があること」

    • 「いちばんはじめに使ったヒトが分からないこと」

    • 「信頼できる言いまわしなので、自分の考えを支える」
    という3つです。

    この3つのポイントから考えると、〈「ことわざ」グループ〉が近いと言えます。ですが、完全に一致していると考えるのも、いまいち納得がいきません。

    そういうわけなので。ここはひとまず、保留ということにします。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 成句・イディオム<
  • 呼び方1
  • 固定的慣用表現
  • 参考資料
  • ●『比喩と理解(認知科学選書17)』(山梨正明/東京大学出版会)
  • この「成句・イディオム」というページをつくるのに、いちばん役に立った本です。「目を剥く」とかいう例文は、ここのパクリだとさえ言えます。
  • ●『新版文章表現辞典』(神鳥武彦・村松貞夫[共編]/東京堂出版)
  • 文章で使われる「成句・ことわざ」ということを、考えたばあいには。こちらのほうが役に立つかもしれません。
  • 余談

  • 余談1「藍蘭島」というネーミングと、「アイランド(island)」との関係
  • アイランド(island)という英単語は、「島」という意味です。

    そして「藍蘭島」というのは、「あいらんとう」という読みかたをします

    ですので、「藍蘭島」という名前は。「あいらんとう」と「island」という2つのことを言いあらわしていることになります。

    という前提をふまえたうえで。
    このように、1つの単語に二重の意味を重ねてあるもの。こういったもののを、レトリック用語では「 重義法」とよびます。

    まあ、レトリック用語はともかくとして。このタイトルから、2つの意味を見いだすことは、そんなに難しいことではありません。