懸延法:ある情報をすぐには出さないで留保するもの
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懸延法
関連レトリック
懸延法
懸延法
けんえんほう
sustentation
なじみ「ちょ! なに
声に出してんのよ!」
かねる「『だめ・・・! 私
変になっちゃう・・・!』
『あ・・・あぁ!』」
なじみ「コラ!」
(なじみが、かねるに
チョッブをする)
—(沈黙)—
かねる「ぶ・・・ぶったー・・・」
なじみ「・・・・・・」
-『ドージンワーク』2巻95ページ(ヒロユキ/芳文社 まんがタイムKRコミックス)
懸延法
は、ある情報をすぐには出さないで、とどめおくというレトリックです。つまり、読み手が「知りたい」と思うようなことを、あえて言わずに留保して間をおいたあとで、その情報を出すものです。
その場の全体像が分からないため、未解決の感じを出す
「懸延法」では、伝えようとしている大事なところを示さない。そのため、大事なところが分からないままストーリーが続くことになり、おいてきぼりになってしまっているという印象を受けることになります。
:未解決、未決定、 未定、 不確定、 未確定、保留
早くに知らせておくことを後まわしにすることで、落ち着かないようすを表す
「懸延法」によって、先延ばしにされた情報がある。でも、その先延ばしにさた情報が具体的にどういっしたものなのか、なかなか読み手(聞き手)には伝えられない。その場合、「もどかしい」と感じたり、さらには「いらだたしい」と感じられることもあります。
:じらす、いらだつ、じれる、じりじり、遅い、のろい、のろのろ、じれったい、もどかしい、歯がゆい、いらだたしい、いらいら、やきもき、隔靴掻痒
途中で欠けることになった情報を明らかにしたいと考え、ストーリーに注目させる
なにか先延ばしにされたことがある。すると人間は、「先延ばしにされたことが、どんなものなのか」を知りたいと思うようになります。結果として、読み手(聞き手)を引き込むことができるようになります。
:期待感、心もち、見込む、心当て、誘い込む、とりこ、心をつかむ
伏せられた情報が明らかになったときに、驚いて息をのむ
「懸延法」によって一時的に伏せられた情報は、あとから明らかになります。その明らかになったときに、その意外な結果に読み手(聞き手)が驚くように作りあげるのが「懸延法」のコツです。
:(読者を)驚かす、驚く、はっとする、息をのむ、驚愕
ストーリーの進行上、本来ならあるはずの内容を出さない
本来ならばストーリーの流れは、先頭からすすめられます。ですが流れに逆らって、すぐには必要な情報を出さないということがります。これが「懸念法」になります。
:あとまわし、延びる、延ばす、引き延ばす、延長、先のばし、先おくり、順序を変える、順番を変える、あとでわかる
伏せられたために、情報が十分に理解できない
読み手(聞き手)としては、「懸延法」によって先おくりにされた情報がいったん受けとれないことになります。その結果、ストーリーを十分に理解できなくなってしまいます。このことから、ストーリーに対するしっかりした理解ができなくなっているような、印象を持たれます。
:不明瞭、不鮮明、ぼんやり、漠然、曖昧模糊、未詳、不詳、未確認、明らかにしない、(状況が)飲み込めない
先に出てくるはずの情報を、表に出さない
「懸延法」を使うサイドとしては、伝えられなければならない情報を、表に出さないことになります。言いかえれば、その時点で明らかにされるはずのシーンを一時的に隠していることになります。
:(情報を)伏せる、隠す、潜む、忍ばせる、包みかくす、秘する、秘密、与えない
>はじめの例文は『ドージンワーク』2巻。
本のタイトルになっている『ドージンワーク』という名前。そのとおり、同人活動について扱っているマンガです。ここに出てくる同人誌というは、多くのばあい18禁の内容です。
主人公は「なじみ」。そして、もうひとり登場するのが「かねる」。ふたりは今、同人誌即売会の会場にいる。今回売ろうとしているのは2人とも、自分で描いた同人誌。これをひっさげて、会場にやってきた。
しかし「かねる」は、即売会会場に着いてから重大なことに気がついた。それは、「自分の描いたマンガは、局部に修正(モザイク)をすることを忘れていた」ということ。そんなわけで「かねる」は、テーブルに「新刊ありません」と書いたメモをおいて、ひとり落ち込んでいた。
ここで「なじみ」は、「かねる」の描いた同人誌(18禁です)の一部を、声に出して読み始める。具体的には、
かねる「『だめ・・・! 私
変になっちゃう・・・!』
『あ・・・あぁ!』」
という感じです。
それを見ていた「なじみ」は、いきなり「かねる」にチョップをする。一瞬の空白が生まれる。そして「かねる」かr、「ぶ・・・ぶったー・・・」というセリフが出てくる。
ここの「一瞬の空白」が、「懸延法」だということができます。
たしかに作者の考えを、悪いほうに考えることもできます。たとえば、「3コマ目と4コマ目のイラストが同じにして、使いまわししおう」として、同じイラストを使ったとか。または、「3コマ目に描き入れるものが、みあたらない。だから、4コマ目と同じものを入れておこう」とか。
まあ、そういった邪推は無視しておくことにします。であれば、この3コマ目は「懸念法」だと言うことができます。
3コマ目で描かれるはずだったものが、4コマ目に移動している。ふつうならば、3コマ目に「空間ができている」。たしかに一見すると、3コマ目には何も残らないような気もします。ですが、「何も言っていないようで、じつは伝える内容がある」といえるようなところに、なにか伝えることがあるような「空白がある」。
この「空白」のことを、「懸延法」と呼びます。
不動産屋「……それと
わたくし
伊藤様の 漫画を
読まさせて
いただきました!!」
伊藤理佐(漫画家)「えっ」
不動産屋「
—(沈黙)—
」
不動産屋「
—(沈黙)—
」
不動産屋「おもしろかったです」
理佐「えっ」
次の例文は『やっちまったよ一戸建て!』1巻。
この漫画は、作者の伊藤理佐先生が一戸建てを建てるというストーリーです。まあ、フィクションとノンフィクションとが混じっているのですが、そのあたりは読み手の判断にゆだねられています。
作者の「理佐」は、一戸建てを新築することを決意。その一戸建てのために、いろいろな不動産屋を回った。だけれども、みんな断られた。
ただ、「星」の勤めている不動産屋だけが、「理佐」の無理な注文に何とか折り合いをつけようとしてくれることになった。
ということで、「星」という名前の「不動産屋」が、一戸建てをサポートしてくれることになった。
そんなある日。「星」は、こんなことを言う。
不動産屋「わたくし
伊藤様の 漫画を
読まさせて
いただきました!!」
だが。そのあと、沈黙が続く。そして、
「おもしろかったです」
と言う。
このあいだにある沈黙が、「懸延法」というわけです。「漫画を読みました」と作者に言ったばあい、その評価を聞きたいと思うのが作者の心理。その「評価を知りたい」というキモチを心に持ったまま続いていく、沈黙。
この、なんともいえない「いやらしい」感じが、「懸延法」そのものです。
「懸延法」と「中断法」
そういったわけで、この「懸延法」は「
中断法
」に近い関係にあります。というより、「懸延法」と「
中断法
」とを別の項目としないで、いっしょにまとめたほうが自然なのかも知れません。
懸延法
未決・情報待機
サスペンス
『文章読本笑いのセンス』(中村明/岩波書店)
もしもこの「懸延法」について知りたいという時には、用語集とか辞典とかを使うのではないかと思います、です。それに加えて、ここに紹介している本も、それなりの長さでの「懸延法の解説があります。この本では「情報待機」という用語で扱われていますが、ほぼ「懸延法」と同じものです。
『プロを目指す文章術 大人のための小説教室』(三田誠広/PHP研究所)
この本で「懸延法」は、「サスペンス」と呼ばれています。そして、このページで扱っている「懸延法」と「サスペンス」とは、少し違うものです。その理由は、「サスペンス」は基本的には、ストーリー全体でのスケールのものを扱っているからです。けれども、この本が解説する「サスペンス」には、「未解決」とか「宙づり」といった意味あいがあるとされています。ですので、「懸延法」に関する資料として扱うことができると思います。
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:途中で言うのを止めるもの
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