引用は、「すなぼし」からです。(『ひとひら よしづきくみち作品集』所収)
主人公は、京太。
京太は、2人で天文部の活動をしていた。もう1人の部員は、姫織(ひおり)という女の子。
…と書いたんだけれども。この短編では、1ページ目から「廃部になった」ということが語られる。なぜかというと、姫織(ひおり)が天文部の活動中に、天文台から転落して死んでしまったから。
それから。京太は、姫織(ひおり)の使っていた双眼鏡で、天体観測をするようになった。つまり双眼鏡が、「かたみ」のような役を果たしていたというわけ。
そのように、1人になりながらも天体観測を続けていた。だけれども京太は、ある日「その双眼鏡」を落としてしまった。双眼鏡は、姫織(ひおり)との思い出をつなぐ、「かたみ」のようなものだったはず。なので当然ながら、ひどく悲しんだ。
すると、次の朝。京太の目の前に、姫織(ひおり)だとしか思えないヒトがあらわれる。ただし、「双眼鏡」をかけているけれども。
で、引用のシーン。姫織(ひおり)っぽい女の子は、つぎのように語る。 えーっと 生後15万9432時間49分
を経たときに
自分が壊した物を想って
だけれども。
こんな「15万9432時間49分」なんていうのは、あまりに細かすぎるのです。つまり、まるで現実感がない。
そう。たしかに現実感がない。テキトーな数を言ったとしか思えない。だけれども、その「現実感のなさ」が、「過精密」を生みだすことになるのです。
テキトーに言ったに過ぎないと、京太は思う。本の読者も、そのように考える。それでこそ、「過精密」となるのです。
なお、この場面では。姫織(ひおり)が現れたことについては、ホントのことを言わない。もしくは、言うことができない。そのため「過精密」を使うことで、言い逃れていると考えることもできます。