類義区別:似ている言葉を、はっきりと区別して使う
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類義区別 るいぎくべつ distinctio,paradiastole

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』1巻78ページ([原作]しめさば・[漫画]足立いまる・[キャラクター原案]ぶーた/角川コミックス・エース)
  • 吉田「髭があるのが
  • オッサンなんじゃない
  • 「髭を剃るのが面倒になる」
  • のがオッサンなんだな…
-『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』1巻78ページ([原作]しめさば・[漫画]足立いまる・[キャラクター原案]ぶーた/角川コミックス・エース)
  • 定義重要度2
  • 類義区別は、似ている言葉を、はっきりと区別して使うレトリックです。つまり、うっかりしていると「同じ意味だ」と受けとられてしまいそうな2つのことばを、並べることによってハッキリと区別する表現です。

  • 効果

  • 効果1何か主張があるばあいに役立つ

  • これまでとは違う主張があるときに、今までと少しズラした別の言いかたをする。それは、多くを言わずに留めておいたように見えるけれども、実はその違いを強調してする役目を果てたしている。そのような形をとることによって、より強く主張をすることができます。
  • キーワード:主張、言い立てる、言い通す、言い張る、考えかた、思考、思想、アピール
  • 使い方
  • 使い方1細かい違いに注目する

  • ほんとうは細かい違いにすぎないようなこと。だけれども、わざと2つの考えを比較して、そのあいだの距離を強調するといったことすることができます。
  • キーワード:距離、距たり、(違いが)細かな、細かい、微細な、ささやかな違い、僅か、ささい、小さい、小さな、瑣末な、多義性、曖昧、ほとんど同じ
  • 使い方2その細かな違いをハッキリ区別する

  • 似かよっている、ことば同士。その2つのことば同士であっても、少しは違いがあるはずです。その違いを明らかにするのが「類義区別」です。
  • 例文を見る)
  • 『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』1巻から。

    ある日吉田は、家出少女の女子高生に出会った。路上に座り込む彼女の名は、沙優。

    「ヤらせてあげるから泊めてよ」と言うJK・沙優の言葉を聞き、吉田は彼女を自宅アパートに連れて行く。

    そして、何かに及ぶわけでもなく、ひたすら説教をはじめる。

    そんな考え方は「馬鹿」だと。

    そしてその日から、吉田は沙優と不思議な共同生活をはじめることになる。

    そんな共同生活をしている、ある日のこと。

    無精髭を生やす吉田に、沙優は尋ねる。

    「吉田さん 髭 今日は剃らなくていいの?」と(76ページ)。

    それに対する返事が、引用の部分。髭を剃るかどうかについても、何やら哲学めいたものがあるようです。こんなふうに、物事の細かな違いに目をつけて、その違いを際立たせる。これが、「類義区別」です。
  • 例文を見るその2)
  • 『星界の戦旗II-守るべきもの-』29ページ(森岡浩之・宮越和草・サンライズ・WOWOW/メディアワークス 電撃コミックス)
    • ジント「気に入らないようだね」
    • ラフィール「! 何故そう思うんだ?」
    • ジント「いやあ… 何となく」
    • ラフィール「別に気に入らないわけじゃない!
    • ただ気が進まないだけだ!」
    • ジント「なるほど」
    • サムソン「さてこの二つの言葉には
    • どれだけの隔たりが
    • あるんでしょうかね…」
    • ソバーシュ「さあ 私ならそんな些事には
    • こだわらない事にするね
    • 身の安全のために」


    上の引用は『星界の戦旗II』1巻から。

    星界軍と人類統合体との、2つの勢力があるという世界。そして、この星界軍と人類統合体とのあいだで、戦闘がはじまる。
    登場人物のラフィールやジントたちは、星界軍の一員として戦いに参加している。

    そんななかでの戦況は、圧倒的に星界軍のほうが優勢。そのため、さまざまな地域を星界軍のものにしていく。
    が、そのときに、それぞれの占領した星での「領主代行」を決めておかなければならないことになる。

    それが引用の場面です。

    「領主代行」は皇族か貴族でなくてはならない、という決まりがある。で、ラフィールは皇族で、ジントは貴族(伯爵)であるために、その役が回ってくる。それに対してのラフィールの言葉、
    別に気に入らない
    わけじゃない!
    ただ気が進まないだけだ!


    というところを「類義区別」と見ます。

    さて、皆さんは、「気に入らない」と「気が進まない」との間にどれくらいの違いを感じるでしょうか。
    サムソンも「どれだけ隔たりがあるのでしょうかね…」と言っています。

    ですが、ラフィールは明確に分けて「気に入らない」ではなくて「気が進まない」なんだ、と言っています。

    このように、似通った言葉を明らかに区別して並べて使うレトリックが「類義区別」です。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「類義区別」は多い
  • そういったわけで。
    この「類義区別」というレトリックの技術を、実際にコミックの中で使っている本。それは、それこそ枚挙にいとまがありません。

    それなのに、このレトリックはマイナー扱いです。

    「類義区別」「微差拡大」「多義識別」のいずれを検索しても、ほとんんど収穫がありません。また英語名は「distinction」なので、検索すること自体が無理だと言えます。

    まあ、いいんです。「類義区別」はコミックスであっても、いくつも見つけることできる。そのことが、分かっていただけたと思うので。

  • 深く知る2「愛称語」と「換喩」との関係
  • この「類義区別」に関連して。
    『日本語レトリックの体系』には、「微差拡大」というレトリックが用意されています。

    これは、
    ふつうに見ていると似たように思われる2つの言葉のあいだの違いを、極端に強調して、その違いを目立たせるレトリックである

    と説明されています。

    ですのでこの「微差拡大」は、「類義区別」とほぼ同じものだと考えていいでしょう。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 類義区別
  • 呼び方3
  • 微差拡大
  • 呼び方1
  • 多義識別ディスタンクシォン・分別法・区別(法)
  • 参考資料
  • ●『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
  • 日本語の例文が載っているいます。日本語での「類義区別」を知るのには大事な本です。なおこの本では、「微差拡大」という用語が使われています。
  • 余談

  • 余談1「アーヴ語」での会話を説明するための「フリガナ」
  • なお、「 人工言語」での注意書きと同じく。

    上で引用した「ラフィール」「ソバーシュ」たちは、「アーヴ」と呼ばれる(人間に似た姿をした)生命体です。ですので、この「ラフィール」と「ジント」とのあいだの会話では、「アーヴ語」という言葉で交わされています。

    そしてこの本では、そのアーヴ語流の言い回しが「フリガナ」として(カタカナで)書いてあります。

    しかし、いちいち「星界軍」に「ラブール」、「帝国」に「フリューバル」といったアーヴ語の「フリガナ」を忠実に書いていったら、すさまじく読みにくくなります。また、手間もかかります。ですので、アーヴ語流の言い回しとして書かれている「フリガナ」については、このページでは省略して書いていくことにします。

    なお、
    アーヴ語がどんなものかを見てみたい人は、「 人工言語」のページに行くと見ることができます。「フリガナ」に通常の読み方と異なるものが振られているという点については「L0052」を参照して下さい。
    以上が、おわびとご注意です。

  • 余談2「個人的な意見」--小説を読んで欲しい。
  • あと、個人的な意見としては。

    もしも、まだ『星界』シリーズを楽しんでいないのだとしら。
    早川書房から出版されている「文庫版(ハヤカワ文庫)」の原作のものから読んでほしいというのが私の希望です(「 人工言語」のページでも同じことを書きましたが)。

    『星界』シリーズは、アニメやマンガ、ドラマCDなど、いろいろな方面に「メディアミックス」しています。

    しかし、いちばん原点にあって読者を引きつけるパワーがあるのは、ハヤカワ文庫版の『星界の紋章』と『星界の戦旗』だと思います。

    ですから、興味のある方は「ハヤカワ文庫」からスタートして下さい(ちょうど作者が遅筆なのでやや古い本になっているので、中古ならば1冊100円くらいで手に入れることができるかもしれないし)。