緩叙法(一重否定):手前の否定文をさらに否定するもの
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緩叙法(一重否定) かんじょほう(いちじゅうひてい) litotes

『涼宮ハルヒの憂鬱』3巻83ページ(谷川流[原作]・ツガノガク[漫画]/角川書店 角川コミックス・エース)
  • みくる「あ…あの どうでしょうか…?」
  • キョン(悪かろうはずが
  • ありません
-『涼宮ハルヒの憂鬱』3巻83ページ(谷川流[原作]・ツガノガク[漫画]/角川書店 角川コミックス・エース)
  • 定義重要度5
  • 緩叙法(一重否定)は、手前に出てきた否定的な文を、さらに否定するものです。前に出てきた否定的なフレーズを、否定する。このことによって、かえって強調します。

  • 効果

  • 効果1「否定的なコトバを否定する」ことによって、受け手に訴える

  • 前に出てきた否定的なフレーズを、否定する。このことによって、かえって強調する。これが緩叙法(一重否定)です。
  • キーワード:強い、強力、力強い、強み、強調、(受け手に)訴える、(意味を)強める、強化、増強、盛り上げる、盛りあがる

  • 効果2遠回しにすることによって、婉曲的・間接的な表現にする

  • 否定の意味を持ったことばを、さらに否定する。これは、遠回しにした表現だと言えます。ですので、間接的な表現をとりながら、実際には強めの表現になることもあります。
  • キーワード:やわらげる、緩む、緩める、和らぐ、緩和、クッション、ほぐれる、なごむ、含みのある、含む、それとなく、暗に、こっそり、こっそりと、ぼかす、ぼける、ほかし、ぼやかす、ぼやける、くねらせる、くねくね、うねうね、婉曲語法

  • 効果3使い手が横柄で尊大だということをあらわす

  • 持って回ったコトバづかいをすることによって、緩叙法を使う。それが時として、えらぶっているという表現となることもあります。
  • キーワード:高慢、尊大、傲慢、驕慢、傲然、傲岸、不遜、居丈高、高姿勢、高飛車、威圧的、高圧的、生意気、もったいぶる、思わせぶり
  • 使い方
  • 使い方1「否定の否定」をする

  • 緩叙法(一重否定)を使いたい。その時には、「否定されたことを、さらに否定する」という手順をふむことになります。その手順は、遠回しで婉曲な表現となります。緩叙法(一重否定)には、「強める」効果と「遠回しにする」効果の2つがあります。ですが、「否定を否定する」という手順には変わりありません。
  • キーワード:遠回し、婉曲、回りくどい、持って回った、ねちねち、くだくだ、間接性、遠い、縁遠い、迂回性、迂回
  • 注意

  • 注意1一重否定は、受け手に負担をかける

  • 上にも書いたように緩叙法(一重否定)では、語や文がからみ合って登場します。そのため受け手(読み手・聞い手)に、負担をかけることになります。ですので、それほど多く使うことは見合わせておいたほうが無難です。
  • 例文を見る)
  • 引用は、『涼宮ハルヒの憂鬱』3巻から。

    ここでの登場人物は、2人。みくると、主人公のキョン。
    2人は、SOS団(という同好会)に、無理矢理に入団させられていた。

    (なお、SOS団とはなにか、については省いておきます。涼宮ハルヒといった存在あるかも、本のタイトルにキッチリ『涼宮ハルヒ』と書いてありますが、省略します)

    ある日のこと。キョンはみくるから「今度の日曜日… 一緒に買い物生きませんか…?」と誘われる。そんなわけでキョンは、みくると日曜日に集合することになった。

    みくるのお目当ては、ブティック。試着する、みくる。そして、いちばん上に書いた引用です。

    キョンの感想。
    悪かろうはずが
    ありません
    とのこと。

    この文をよく見てみると、
    かろうはずが
    ありません
    となります。

    まずはじめに、「悪い」ということば出てくる。これは、いうまでもなく「否定的なことを示す単語」です。この単語をさらに、「ありません」ということばによって、否定します。この結果、「良い」ということが強調されることになります。
  • 例文を見るその2)
  • 『さくら荘のペットな彼女』1巻65~66ページ([原作]鴨志田一<br>・[作画]草野ほうき・[キャラクターデザイン]溝口ケージ(アスキー・メディアワークス 電撃コミックス)
    • 空太「あんたは
    • ほんとに聖職者か!?
    • 聖職者としての[li]]自覚を持て!!」
    • 千石先生「聖職者の自覚?
    • そんなの
    • 父親の睾丸の中に
    • 忘れてきたわよ」
    • 空太(うわぁ…)
    • 「女の人が睾丸って言うの
    • はじめて聞きました」
    • 「さすが三十路は
    • 違いますね」
    • 千石先生(ピキッ)
    • 誰が三十路ですって~!?
    • 私はまだ
    • 29歳と15か月よ!!


    次の例は、『さくら荘のペットな彼女』1巻から。

    これは、学生寮の「さくら荘」をめぐってのお話。

    主人公の空太(そらた)は、「さくら荘」の住人。そして、いま「さくら荘」に来ているのが千石先生。美術教師。

    ここで千石先生は空太に、とてつもなく困った相談をもちかけてくる。いや、「相談」ではない。「渡す物がある」と、持ってきた写真を空太に見せる。そして、写真の人物とは「駅に6時に駅で待ち合わせをしているので、迎えに行って」と言われる。これは、どちらかというと「命令」に近いと思う。

    そして、この「命令」を受ける受けないということで言いあいになっている。

    売り言葉に買い言葉で、空太は「(先生も)三十路だ」というセリフを吐く。

    たしかに千石先生も、人間なので年をとる。だけれども、29歳になったあとで誕生日を迎えると、30歳になるはずです。

    ところが千石先生は、自分はまだ「29歳と15か月」だと主張している。そして、そのことを理由に「まだ三十路ではない」と言っています。

    ここにある
    誰が三十路ですって~!?
    というところが、「緩叙法(一重否定)」になります。

    この文を、分かりやすくしてみると、
    三十路であるはずがありません
    となります。
  • まずはじめに、「三十路」ということば出てくる。これは、会話の成りゆきから考えて、「否定的なことを示す単語」だといえます。この単語をさらに、「ありません」ということばによって、否定します。この結果、「30歳にはなっていない」という(無理のある)主張が強調されることになります。
  • ですので、「緩叙法(一重否定)」になります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1緩叙法の分類
  • 緩叙法とは、弱めの表現を使うことによって、逆に強める意味をもともののことをいいます。ですので、「ひと目見たばあいは、意味をやわらげる」。でも「実際には、ことばを強める効果を持つ」という2つの条件をみたしているのが、緩叙法です。

    で。具体的に「緩叙法」に含まれるパターンがあるか。それをあらわしたのが、下の図となります。
     


    否定を用いる

    └ 
    一重否定(悲しくはない→うれしい)
     緩叙法 二重否定(うれしくないわけではない→うれしい)
     

    選択(好意を持っています)
     否定を用いない付加(少し酔っぱらった)
       指小辞(小鳥の「こ」)
    『レトリックの知—意味のアルケオロジーを求めて—』(瀬戸賢一/新曜社)より
    この図を見ることによって、「緩叙法」全体が見えてくるのではないかと思います。

    このページのタイトルは「緩叙法(一重否定)」です。なので、上に表では、一番上にある「否定を用いる」のなかの「一重否定」にあたります。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 緩叙法(一重否定)
  • 呼び方3
  • 反対否定
  • 参考資料
  • ●『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • ある程度の長さをもった説明が、されている本としてあげておきます。ほかに、同じ者の本として『日本語修辞辞典』(野内良三/国書刊行会)などもあります。
  • ●『大学生のためのレトリック入門』(速水博司/蒼丘書林)
  • とりあえず、無難な本。とりわけ目をひく内容ではない。でも、基本となることがらを、ていねいにまとめてあります。
  • 余談

  • 余談1「涼宮ハルヒ」とは何者か
  • 「涼宮ハルヒ」という人については、少しだけ「 論議拒絶」の項目に書いてあります。

  • 余談2千石先生は、太陰暦でも「15か月目」にはならない。
  • もしかしたら太陰暦には、閏月があるので29歳15か月もあるではないか。そう思ってしらべた。でもよく考えたら、太陰暦では「数え年」だから、元日に年齢が増えるんだった。