緩叙法(広義の):見せかけだけ、弱めた表現するもの
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かんじょほう
litotes
都筑「ゲームは何にいたしませう
ドクター」
邑輝「ではポーカーで。
ねえ都筑さん
私と勝負しませんか?
チップではなく
何か別の物を賭けて…
その方がスリルが あるでしょ?」
都筑「何を?」
邑輝「そうですね たとえば…
体
とか。」
都筑「なに考えてんだ
テメエはああ!!!」
(なんてなんてなんて破廉恥なッ)
邑輝「たかがゲームじゃ
ありませんか
それとも私に負けるのが
こわいんですか 都筑さん?」
都筑(うッ…
い…嫌な予感が)
あっ…の…
もしも… 俺が負けたら?」
邑輝「決まってるでしょ?
あーんなことや
こーんなことや
とても商業誌では
見せられないような
辱めをッッ!!
(クックックッ
ぜぇーんぶ試してあげましょうね
四十八手。)
都筑(やっぱりィ——っっ
ぞくぞくぞくッ)
-『闇の末裔』3巻60ページ(松下容子/白泉社 花とゆめCOMICS)
緩叙法(広義の)
は、見せかけだけ、弱めた表現するレトリックです。
たしかに、表面上は「ひかえめ」なカタチをとっている。でも、それは見せかけだけのもの。本心は、大げさな表現よりかえって強調を狙っている。そういったレトリックです。
露骨にいうよりも、意味深長
ものごとを露骨に言うのを避けることで、より深いメッセージを送ることができます。
:露骨を避ける、暗に、それとなく、ひかえめ、乏しい、薄い、手薄、ひかえる、手控える、差し控える、意味深長
遠回しに表現することで、皮肉・諧謔を盛りこむ
>遠回しに伝える、という「緩叙法」の特徴を利用する。そのことで、ふつうは言えないような皮肉や諧謔を表現することができます。
:皮肉、皮肉る、あげ足、当てつけ、当てつける、アイロニー、諷する、諷刺、諧謔、おどけ、ユーモア、ジョーク
ものごとを遠回しに言うことで、つつしみ深く品格を保つ
「緩叙法」では、ものごとを遠回しに言うことになります。そこから、つつしみ深く品格を保つようなフレーズを作ることができます
:品格、品、気品、上品、つつしみ深い、つつしむ、自制、ひかえる、深長、用心深い
クールで冷静な感じをだす
「緩叙法」を使うと、一歩離れたハタからの視線を持つことになります。そのため、ものごとに冷静・沈着な様子を表します。
:クール、冷静さ、沈着、平静
ストレートに言わずに、間接的な表現をする
ストレートに言わずに、間接的な表現をする。「緩叙法」を使うばあいの、基本的な手法です。
:間接、遠い、間接性、遠回し、婉曲、持って回った
見せかけだけ弱めることで、かえって強調する
みせかけだけ弱めることで、単なる肯定よりもっと強調をすることができます。
:みせかけ、うわべ、表面、おもてむき、外面、うわっつら、外見、外観、印象、焼きつける、インパクト
あざとく利用されることがある
「緩叙法」は、表面上のことばと真意とが正しくつながっていません。そこをついて、二枚舌のような言い回しを悪用するおそれがあります。
:あざとい、さかしい、こざかしい、小利口
キザっぽい・イヤミな表現になりやすい
「緩叙法」を使いすぎると、キザっぽくなったり、イヤミになったりします。
:キザっぽい、横柄、尊大、高慢、イヤミっぽい、いちゃもん、苦情、論難
例文は『闇の末裔』3巻から。
主人公は、「都筑」。
「都筑」は、十王庁の中の閻魔庁で「死神」の仕事をしている。この世界では、死んだ人は十王庁へ送られることになっている。
しかし最近、香港で「死んだはずの人が十王庁に来ないで行方不明になる」という事態が起こっている。そこで、「死神」である都筑が原因究明のために動き出した。
どうも「華京院グループの豪華客船が怪しい」ということで、都筑はその客船に乗りこんだ。そこで、邑輝という男と再会する。その邑輝と都筑とのあいだの会話が引用のシーン(59〜60ページ)。長い引用になってしまいましたが、ポイントは、
あーんなことや
こーんなことや
とても商業誌では
見せられないような
辱めをッッ!!
という部分。「あーんなこと」とか「こーんなこと」とか「とても商業誌では見せられないような辱め」とかが、具体的には何を意味しているのかは言ってはいません。ですが、この言葉がなにを意味するのかは、言うまでもないことです。まあ要するに、邑輝が都筑を狙っているわけです。
確かに、邑輝は具体的なことは言っていません。けれども遠回しに言うことによって、かえって強調の効果が出ています。ですのでこれは「緩叙法」に分類されます。
付け加えると。「言うまでもないこと」として言い逃れをするために、引用が長くなったともいえます。私(サイト作成者)は、「公然わいせつ」(刑法174条)や「わいせつ物頒布等」(刑法175条)で逮捕されたくはありません。ですので、作者にならって私も、具体的なことは書かないでおきます。
なお、細かい分類をしておけば、
「あーんなこと」と「こーんなこと」については、「
緩叙法(選択)
」に当てはまる
「とても商業誌ではみせられない」については、「
緩叙法(一重否定)
」に当てはまる
と思います。
「緩叙法」と「迂言法」「誇張法」との関係
ほんとうのところ「緩叙法」の定義は、レトリック研究家によって一致していません。「
婉曲語法
」やら「
過小誇張法
」やらを巻きこんで、なにやら大論争になっております。
そういった困った状況なのですが。このサイトでは、つぎのように定義しておきます。
つまり、
(手段)
迂言法の性質 :
遠回しに言うことになる
←遠回しに言わない「
過小誇張法
」とは、違うもの
(効果)
誇張法の性質 :
表現を強調することになる
←表現を強調しない「
婉曲語法
」とは、違うもの
という2つの性質を持っているものを、「緩叙法」としておきます。
「緩叙法」と「婉曲語法」との関係
「緩叙法」は、「
婉曲語法
」と形の上では同じものになってしまいます。「緩叙法」と「
婉曲語法
」はどちらも、表現それじたいは現実よりも「弱く」「小さく」示されているからです。
しかし、そのことばによって伝えようとしていることは、まったく逆です。「緩叙法」は、ほんとうは強調をねらったものです。しかし「
婉曲語法
」は、ことばどおりに弱くすることを意図したものです。このように「緩叙法」と「
婉曲語法
」は、送ろうとしているメッセージが正反対なのです。
ですので読み手(聞き手)は、それが「緩叙法」なのか、それとも「
婉曲語法
」なのか、それをしっかりと見極める必要があります。
「緩叙法(広義の)」の下位区分
このサイトでは、「緩叙法(広義の)」を、次のように分類しました。この分類は、『レトリックの知—意味のアルケオロジーを求めて—』(瀬戸賢一/新曜社)によるものです。
[[uli○否定を用いるもの
・
緩叙法(一重否定)
(悲しくはない、など)
・
緩叙法(二重否定)
二重否定(うれしくないわけではない、など)
○否定を用いないもの
・
緩叙法(選択)
(好意をもっています、など)
・[[L0139(少し酔っぱらった、など)
・指小辞(こ鳥の「こ」、など)
くわしくは、それぞれの項目を参照して下さい。
「緩叙法」と「曲言法」との関係
「曲言法」は、「〜でない」のような否定的なことばを使って、強い肯定の意味を表すものをいいます。
ですので、上の
にある「○否定を用いるもの」が、「曲言法」にあたります。
けれどもこのサイトでは、すべて合わせて「緩叙法」として扱っておきます。これは個人的な考えではなく、「そのように説明している参考書が多い」という理由によります。
「緩叙法」と「誇張法」との関係
たぶん、『研究社英語学辞典』(市河三喜[編著]/研究社)がそのように書いているからなのでしょう。たいていの本には、「誇張法は緩叙法の反対」と書いてあります。
ですが、「誇張法は緩叙法の反対」というのは、その一面からしか見ていない。そのように私(サイト作成者)が思うのです。
下の図を見てみて下さい。
誇張法
??
緩叙法
婉曲法
目的
強め
弱め
強め
弱め
形式
強め
強め
弱め
弱め
たしかに、「外見から見えるカタチ(形式)」の列では。「
誇張法
」が「強め」で「
緩叙法
」が「弱め」になっています。たしかに反対です。
けれども、「そのレトリックを使う目的(目的)」の列では、「
誇張法
」も「
緩叙法
」も両方とも「強め」になっているのです。反対ではありません。むしろ同じ効果が期待できるのです。
では、ほんとうに「
緩叙法
」の逆にあたるレトリック用語は何か?
探してみたけれども、思いつくものが見あたりませんでした。なので、そこの部分は「??」にしておきました。
緩叙法
反語法・曲言法
※このサイトでは「反語法」は「
皮肉法
」のページで扱い、「曲言法」は「
緩叙法(選択)
」で扱っています。
『レトリックの知—意味のアルケオロジーを求めて—』(瀬戸賢一/新曜社)
このページを書くときに、一番参考にした本です。「緩叙法」を「一重否定」「二重否定」「選択」「付加」「指小辞」に分けることなど、かなり参考にしました。
『レトリックのすすめ』(野内良三/大修館書店)
ひととおりのことが分かる。そんな一冊です。日本語での例文が多いのも、役に立ちます。
サイト作成者の「ひとりごと」
ここから下は、サイト作成者としての「ひとりごと」。
引用したページで邑輝が言った言葉に、
「体とか。」
というものがあります。私が目を引かれたのは、その言葉の意味するところではありません。マンガのふき出しで「。」という句点が使われている点に、コミックスを読んだ当時には意外性を感じました。
ふつう、マンガのふき出しには「。」という句点を使われませんでした。松下容子先生は、たまにふき出しで「。」という句点を使うことがありますが、他の作者のマンガには、「。」という句点が使われることは滅多にありませんでした。
ただし原則的に、出版社が「小学館」のものに限っては、「、」「。」が使われていますけれども。
まあというわけで、マンガのふき出しで「。」が使われることは、すごく少なかったのです。
ですが。
今や、多くのコミックスで「。」(句点)を見かけるようになりました。こういったことを書くようになると、「私も歳をとったなあ」と実感するわけなのですが。
以上、サイト作成者の「ひとりごと」でした。
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:言い回しを2回否定する「緩叙法」
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