空言:実際にはできない言い回しを使い非難すること
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空言
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空言
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そらごと
——
大吾郎「〈巧の姉の乙女さんが〉
果てはヤミ金に
追われている
哀れな一家を助けるため
はるかなサイパンまで…
何という慈悲…!!」
巧「いや…それ
〈巧の姉の乙女さん〉に
振り回される
家族の身にも
なってくれよ」
文乃「ムチャして
巧や乙女さんの身に
何かあったら…
ただ一人のアルバイト
であるあたしのお給料は
誰が払うんだっての!!」
巧「もしかして
…心配してくれてる?」
文乃「バカ言ってんじゃ
ないわよ!!
二回死ね!
」
-『迷い猫オーバーラン!』1巻22ページ(松智洋[原作]・矢吹健太朗[漫画]/集英社 ジャンプ・コミックス)
空言
は、実際には行うことのできないような言いまわしをつかって、相手を非難してののしることをいいます。
ヤボなことをいう相手を、けなす
相手の発言が「ヤボ」だったりしたばあいに、ののしったりバカにしたりするといった効果があります。
:ののしる、けなす、こき下ろす、そしる、誹謗、罵詈、罵倒、中傷、悪口、苦言、憎まれ口、悪態、雑言、不作法な言葉、あくどい、悪質、悪辣、非人間扱い
現実性のないことばを投げつけることで、相手を侮辱する
現実的ではないことばを、投げつける。このような場合には、相手を見下したり、侮辱したりすることができます。
:おとしめる、見下す、さげすむ、軽べつ、侮辱、バカにする、軽んじる、軽べつ、蔑称、悪意
ユーモアな感じを伝えたり、滑稽さを出す
あいてをののしったり、侮辱したりする。それは、一見すると相手を強く非難しているように思えます。ですが実際には、「空言」はバカらしさをもっている。そのため、ののしりや侮辱cであるにもかかわらず、どことなく滑稽な雰囲気がただよいます。
:滑稽、下らない、ナンセンス、バカらしい、おもしろい、おかしい、楽しい、愉快、わくわく、おもしろい、ユーモア、冗句、しゃれ、駄洒落
文法的な間違いがない
「空言(そらごと)」が使われていた。その場合でも、文法的に考えただけでは問題があるようには見えません。
意味を考えると、ふつうありえない言いまわしになっている
たしかに、文法上の間違いはない。けれども意味を考えると、そのようなことが起こるはずがないことが、カンタンにわかる。ここが、この「空言」というレトリックで重要なことです。
あくまで、ことば遊びである
「空言」というのは、あくまで「ことば遊び」です。つまり、書き手(話し手)が「空言」にあたる表現をした。そのときには、読み手(受け手)のほうでも、それが一種の「ことば遊び」であるということを、分かっていることがポイントです。このポイントをはずすと、「意味不明なことを話して(書いて)いる」ということに、なりかねません。
引用は、『迷い猫オーバーラン!』1巻からです。
主人公は、巧。
作品の舞台は、洋菓子店。店主は、巧の姉である乙女。けれども、店主に旅行くせがついているので、あまり店の仕事にかかわっていない。
実質的には乙女の弟である巧と、その幼なじみであるアルバイトの文乃が店をどうにか経営をしている。乙女は、外国で人助けをしたりネコを拾ってきたりしている。
そういった乙女の行動を、まず大吾郎(クラスメートのひとり)。だけれども、これに対して、
文乃「ムチャして
巧や乙女さんの身に
何かあったら…
ただ一人のアルバイト
であるあたしのお給料は
誰が払うんだっての!!」
と言う。これに対して巧は、
巧「もしかして
…心配してくれてる?」
と、文乃に話しかける。これに対する文乃の返事が、問題の「空言」にあたります。
文乃「バカ言ってんじゃ
ないわよ!!
二回死ね!
」
この「
二回死ね!
」。これは、現実的には行うことのできないような言いまわしをつかって、相手をののしっている、と言えます(くわしくは、
の
で、確認してみています)。
ほかの具体例
有名な「空言(そらごと)」としては、次のものがあげられます。
「おととい来い!」
「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」
といったものです。このような言いまわしは「空言」にあたります。
では、どういったものが「空言」にあたるのか。この「空言」が成立するための条件を細かくみていると、つぎにあげる
……文法としては間違いがない
……意味の面では、ありえないことを表現している
……フレーズ全体としては、「ののしる」「侮辱する」といったことをあらわす
の性質をもっていることが必要となります。
ですので、こういったフレーズが、
の性質をもっているのか。つまり、「空言」といえるのかどうかを、以下でたしかめてみます。
「おととい来い!」
まずこの「
おととい
来い!」は、文法の上では問題ありません。「
あした
来い!」が文法の上で問題ないのと同じように、文法が「
おととい
来い!」を排除することはありません。
ですが、「
おととい
来い!」というフレーズは、意味を考えると問題にぶつかります。それは、おとといに戻って改めて来る、というのがありえないからです。まあ、タイムマシンでもあるなら、無理ではないかもしれない。ですが、そういった事情は考えにくいので、意味としては、異常だといえます。
そして、この「
おととい
来い!」という文。これは、相手をけなすために使われるものです。「
おととい
来い!」は、ようするに「
2度
とくるな!」ということを意味している。これは、けなすために使われていることは、間違いありません。
「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」
つぎに「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」について。
文法から見れば、おかしなところはありません。
ですが、「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」と言いまわし。これが表そうとしている意味を考えたばあいには、強い矛盾があります。当然のことながら人間は、「豆腐の角に頭をぶつけて」も、死ぬことがないからです。
そして、この「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」という表現。これは、バカな人だと侮辱してののしることを意味しています。
「二回死ね!」
それを踏まえて、「二回死ね!」を考えてみる。
するとまず、文法から見てみると問題ないことが分かります。
けれども、人間は「二回死ぬ!」ことができません。「人間」だけではなく、どんな生物でも「一回」死ぬことしかできません。したがって「二回」も死ぬことを求めている「二回死ね」という表現は、つじつまの合わないことになります。したがって意味から考えると、ありえない言いまわしになってしまいます。
そして、その真意。このシーンでの「二回死ね!」というのは、ほんとうに相手を殺そうとしているわけではありません。心配をしていることが、巧にバレてしまった。そのバレたことを隠すために「二回死ね!」といっている。つまり、巧にたいしての「侮辱」ということがいえます。
空言(そらごと)
『図説ことばあそび遊辞苑』(荻生待也[編著]/遊子館)
このレトリックに「空言(そらごと)」という名前を与えているのは、この本によるものです。[第7章 秀句系ことばあそび]に書かれています。
『ことば遊び〈ことばの小径〉』(鶴田洋子/誠文堂新光社)
「ありえないこと」という節が、「空言」の解説にあたります。例文は、こちらがくわしいと思います。
「二回死ね!」と「空言」
この「二回死ね!」は、「侮辱」と考えていいのか微妙なところもあります。文乃は、いわゆる「ツンデレ」属性があります。レトリック用語でいえば「反語」に近いモノも見受けられます。ですので、表面だけは「侮辱」していても、実際には「喜んでいる」ばあいもあります。
たとえば文乃が更衣室で着替えているときに、巧が更衣室入ってしまったばあい。ここでの「二回死ね!」は、完全に「ののしる」「侮辱する」にあたります(1巻p13)。ですが、そうではないシーンでも、「二回死ね!」が登場します。
どこまでが本意で、どこまでが「反語」にあたる表現なのか。それは、カンタンには分からないものもあります。
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