なぞかけ:「〜とかけて〜と解く、心は〜」ということば遊び
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なぞかけ なぞかけ riddle,enigma

『ななはん〜七屋ちょこっと繁盛記〜』1巻7ページ(ももせたまみ/講談社 ワイドKCアフタヌーン547)
  • 真実はいつもひとつ
  • 織絵「今日は
  • このネックレスが
  • 入ったの
  • きれいでしょー」
  • ななん「この ネックレスと
  • かけて
  • 園子姐さんの
  • 小説ととく
  • そのこころは
  • どちらも
  • 18金!!
  • 園子「また ななんが
  • 一人なぞかけ
  • やってる——」
  • 織絵「江戸っコ
  • だから——」
-『ななはん〜七屋ちょこっと繁盛記〜』1巻7ページ(ももせたまみ/講談社 ワイドKCアフタヌーン547)
  • 定義重要度4
  • なぞかけは、「〜とかけて〜と解く、心は〜」という形になっている、一種のことば遊びです。つまり、まずカケで問題を出したあと、トキのところで、一見すると関係が全くないことを持ち出す。そして、最後のココロのところで、その二つを結びつけて解決するものです。

  • 効果

  • 効果1答えが言えなくなった相手を降参させて喜ぶ、ことば遊びとして使われる

  • この「なぞかけ」の面白さは、トキの部分に、とんでもなくかけ離れたものを持ってきて、これをココロでうまく落すところにあります。そして、この意外な結びつきを使って相手を降参させるのが、「なぞかけ」の大きなポイントです。
  • キーワード:楽しむ、おもしろがる、興じる、遊び、遊戯、楽しみ、娯楽、消閑、クイズ、問い、問題、言語遊戯、ことば遊び

  • 効果2答えが言えなくなった相手を降参させて喜ぶ、ということがメインにある

  • もともと「なぞかけ」は、「なぞなぞ」と同じように遊ばれていました。何人かで集まって、一方が「なぞかけ」のトキとココロを言う。それに対して他方が答えを言うことができれば勝ち。といったようなゲームでした。テレビ番組「笑点」の「大喜利」コーナーで使われるのが有名すぎるためか、落語で使うのがメインであると考えるひとがいるかもしれません。ですが、それは「なぞかけ」の使いかたの1つにすぎません。
  • キーワード:鼻をあかす、背負い投げを食う、出し抜く、一杯食わせる、だます、だましこむ、まやかす、くらます、引っかける、釣る、はめる、おとしいれる、惑わす、たぶらかす、はぐらかす、いんちき、ペテン、トリック、見せかける、芝居を打つ、煩悶、苦しめる、困り果てる、窮する、手詰まり、困惑、当惑、弱る、参る、降参、音を上げる、思い煩う、悩ます、へこます、やりこめる、くやしい、残念、未練、心残り
  • 使い方
  • 使い方1トキとカケとが、意外性のあるかたちでココロによって結びつけられている

  • 「なぞかけ」では、まずトキとカケが示されます。そして、常識どおりでは関わりのないこの2つが、ココロによって予想外のかたちで結びつきをもつことになります。この意外性に、「なぞかけ」の味わいがあります。
  • キーワード:機知、頓知、ウィット、当意即妙、機転、意表をつく、思いがけない、思いもよらない、思いの外、端なくも、期せずして、図らずも、意外、意想外、予想外、不意を打つ
  • 使い方2しゃれ(掛けことば)の原理を使って、意味を隠し作った「なぞかけ」

  • 同じ音で、意味の違う言葉を使うタイプの「なぞかけ」。この仕組みで作られた「なぞかけ」が、全体のうちのほとんどを占めています。 「腐った卵」とカケて、「お化け屋敷」とトク。そのココロは「黄味(気味)が悪い」といったものが、これに当たります。たいていの「なぞかけ」は、「ココロ」の部分は「 しゃれ」で落すことになります。
  • キーワード:しゃれ、駄洒落、地口、掛けことば、秀句
  • 使い方3そのほかのタイプの「なぞかけ」

  • あまり多くはありませんが、「しゃれ」ではないタイプの「なぞかけ」もあります。例として、「字謎」つかった例をあげておきます。「十」とカケて「九百九十九」とトク。そのココロは「一があれば千となる」。これは「十」という漢字に「一」を書きくわえると「千」になる、という「字謎」にもとづくものです。
  • キーワード:字謎、童謡(わざうた)
  • 例文を見る)
  • 引用は『ななはん』1巻から。

    三人の姉妹が、江戸に住んでいる。
    長女の「織絵」は、質屋をしている。次女の「園子」は、ボーイズラブ小説家。三女のななん、彼女は家事担当。そんな3人姉妹の暮らしが、描かれている。

    「園子」が「ボーイズラブ小説家」であることに注目すると、引用した「なぞかけ」の意味が分かります。

    ある日のこと、「織絵」の質屋に「ネックレス」が持ちこまれる。そんな様子を見ていた「ななん」のひとりごとが、「なぞかけ」です。
    • ななん「この ネックレスと
    • かけて
    • 園子姐さんの
    • 小説ととく
    • そのこころは
    • どちらも
    • 18金!!
    というように、「〜とかけて、〜ととく、そのこころは〜」という流れになっています。そして、「18金」ということばが、「ネックレスの金の純度は18金」と「園子の小説は18歳未満お断りの18禁」という、「 しゃれ」になっているのも、原則どおりのものです。

    まさに、典型的な「なぞかけ」の例だと思われます。この「なぞかけ」が、「ななん」一人だけで「カケ」「トキ」「ココロ」の全部をこなしている、という点を除いては。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1とりあえず、このページで使っている用語の説明

  • 深く知るa「なぞかけ」と「なぞなぞ」の違い
  • このページで説明している「なぞかけ」というもの。この「なぞかけ」と少し(かなり)似たものに、「 なぞなぞ」というものがあります。

    このページを読んでいただく上で、はっきりと区別しておいていただく必要があります。なのでここに、「なぞかけ」と なぞなぞ」との違いを書いておきます。

    まず なぞなぞ」。これは、「××ナンだ?」という質問にたいして正しい答えをするというものです。
    これにたいして「なぞかけ」。こちらは、「××とカケて△△とトク、そのココロは?」という問いかけがなされ、それに見合った答を返すというものです。

    つまり、 なぞなぞ」は、答えを含めると2段階のステップがある。それにたいして「なぞかけ」は、「カケ」と「トキ」と「ココロ」という3段階の区切りがあるのです。

    ですが反対にいえば、「なぞかけ」と なぞなぞ」とのあいだにある違い。それは、答えまでに必要となるステップの数だけです。

    「なぞ」の歴史という視点から見ても、
    「なぞかけ」と なぞなぞ」とは、同じところから枝分かれして生まれたものです。もともとは「なぞかけ」だけしか、ありませんでした。 なぞなぞ」のほうは、近世になってから使われるようになったとされています。

  • 深く知るb「三段なぞ」「複式なぞ」という用語との関係
  • 「なぞかけ」という用語。これは、あまり学問の世界では使われません。

    では「なぞかけ」は、学問の世界ではどのように呼ばれるか。というと、ふつう「なぞかけ」については「三段なぞ」とか「複式なぞ」という名前が使われます。

    どうして、「三段なぞ」というネーミングなのか。それは、すぐ上の項目に書いたことが原因です。つまり、ステップの数が3つなので「三段」になっている。3段階から成りたっているので、「三段なぞ」というわけです。

    また、「複式なぞ」というネーミング。これは、問いが複数のかたちになっていることに由来する呼びかたです。

    ですので、「三段なぞ」「複式なぞ」という用語は、「なぞかけ」と同じことをさしています。

  • 深く知る2ほとんどの「なぞかけ」が、「しゃれ」で作られるわけ

  • 深く知るaかんたんな図から見てみる
  • 「なぞかけ」のほとんどが、なぜ「しゃれ」によって組み立てられているのか。

    その理由は、「なぞかけ」のはじまりが和歌の「掛詞」にさかのぼることができるからです。「なぞかけ」は歴史的にみて、「掛詞」からの影響を強く受けているのです。

    「なぞかけ」や、その周辺にある「なぞなぞ」「字謎」などが、どのような歴史を経て現代にいたっているのか。[[br]「なぞかけ」については、歌物語とか歌合といった「和歌」の要素を強く受けついできています。そのために、和歌にあった「掛詞」のテクニックが強く引きつがれているのです。

    これより下では、そのことのアウトラインを見ていきたいと思います。

  • 深く知るb文字の並びかえを使ったタイプの「なぞかけ」
  • 「上流階級のなぞ」では、歌物語のカタチをとっておこなわれていました。歌物語というのは、和歌を中心としてストーリーが展開するタイプの物語のことです。

    この歌物語は、もともとは教育の色合いが強いものでした。しかし歌物語は、だんだんと教育の側面を少なくしていきます。その結果、クイズのような質問を和歌に詠みこんで、相手に送るということがおこなわれるようになりました。これを「なぞなぞ物語」といいます。

    これがさらに、なぞなぞ合(あわせ)をいうかたちに発展します。
    なぞなぞ合では、まず歌合のように何人かが集まりまりチームに分かれます。そして、一方のチームが「なぞなぞ」を詠みこんだ和歌を相手チームに示して、こたえられるかを競うことになります。つまり、「なぞなぞ」がもつ臨場感が生まれたわけです。

    さらにこのことが、連歌の賦物に応用されていきました。賦物というのは、きまったことばを連歌の各句に詠みこむことです。このことで、ひらがな(カタカナ)の位置を逆さまにしたり移動したりする、といったノウハウが「なぞなぞ」に取りこまれていきます。

    また連歌は、武士の間に広まっていったものです。ですのでこれにあわせて「なぞなぞ」も、身分の高くない階級に広まっていきました。

    そして江戸時代には、「なぞかけ」があらわれます。

    結果として、
    「なぞかけ」は江戸などに住んでいる、おとなの町人向けの「なぞ」として広まっていきました。これにたいして「なぞなぞ」は、1段階少ない分だけ幼くても理解することができるものとして、おもに子ども向けに広まっていきました。

  • 深く知る3「なぞかけ」は「ことわざ」に近いものだということ

  • 深く知るa「ことわざ」を「なぞかけ」に言いかえるのは、わりとカンタン
  • はじめて聞くと、ちょっと意外に思うかもしれません。ですが、「なぞかけ」と「ことわざ」とは、とても近い関係にあるということ。これは、よく知られていることです。

    そのことを確認するために。ここにひとつ、
    金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い
    という「ことわざ」と挙げてみます(この例文は『ことわざのレトリック』のもの)。

    ここでいう「灰吹き」というのは、タバコの吸い殻を捨てるための竹筒のこと。ことわざの意味は、だいたい「金持ちは財産を溜めるほど、ますますケチになり金に汚くなる。灰吹きは灰を溜めるほど、どんどん灰で汚くなる。」といったようなことです。

    さて。この「ことわざ」を、「なぞかけ」に変えてみると。
    • 金持ちとカケて 何と解く
    • 不精者の灰吹きとトク
    • そのココロは 溜まるほど汚くなる
    といったわけで。面白いかどうかは別にして、すぐに「なぞかけ」に作りかえることができます。実は
    〈「A」と「B」は、ともに「C」だ。〉
    というタイプの「ことわざ」は、
    〈「A」とカケて「B」とトク、そのココロは「C」〉
    と言いかえられると考えて、まず間違いありません。
    • 「理屈」と「膏薬」は、「どこにでもつく」
    •  →「理屈」とカケて「膏薬」とトク、そのココロは「どこにでもつく」
    といった具合に。
    これだけ、「なぞかけ」と「ことわざ」は近い関係にあるのです。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • なぞかけ
  • 呼び方4
  • 三段なぞ
  • 呼び方2
  • 複式なぞ
  • 呼び方1
  • 二重なぞ
  • 参考資料
  • ●『なぞの研究(講談社学術文庫 492)』(鈴木棠三/講談社)
  • 「なぞなぞ」に関する研究については、鈴木棠三氏の右に出る人はいません。その研究内容がくわしく書かれている本として、この本をすすめておきます。『ことば遊び(中公新書 418)』(鈴木棠三/中央公論社)
  • ●『ことばの詩学(同時代ライブラリー 132)』(池上嘉彦/岩波書店)
  • 上にあげた本は、やや学問的にすぎる感じがします。また、鈴木棠三氏は民俗学からの流れをくんでいる方なので、そちらからの影響が強いこともヒトによっては気になるかもしれません(氏は、柳田圀男の弟子に当たります)。そこで、そういったトーンが少ない視点からの解説が書いてある本として、こちらをすすめておきます。「Ⅱ 構造と創造」の最初のあたりが、「なぞなぞ」について触れている部分です。
  • ●『ことわざのレトリック(ニュー・レトリック叢書)』(武田勝昭/海鳴社)
  • 「なぞなぞ」と「ことわざ」との関係について、くわしく書かれています。なお、「なぞなぞ」と「ことわざ」との関係については、すぐ上に挙げた『ことばの詩学』でも触れられています。
  • 余談

  • 余談1このサイトは、「なぞかけ」の実例を挙げていくところではありません
  • 私(サイト作成者)は、ただ「なぞかけ」がどういうものかを紹介しているだけです。「なぞかけ」を作って楽しむとか、そういったことをしているのではありません。

    ですが、
    そういう「なぞかけ」を作るサイトは、いくつもあります。ですので、もっといろいろな具体例を知りたい方は、「なぞかけ」ということばをgoogleなどでサーチしてみてください。

  • 余談2なぜ「なぞかけ」は、江戸っ子っぽいのか
  • このページの最初に、例として引用した文。そこには、(ひとりで)「なぞかけ」をしている「ななん」が描かれています。そして、それにたいして織絵は、「江戸っコだから——」と言っています。

    そう、「ななん」は江戸っ子キャラなのです。でも、どうして江戸っ子だと「なぞかけ」なのでしょうか。

    これには、大きな理由があります。それは、「なぞかけ」が流行した時代です。「なぞかけ」に関する本が出版されていたのは、だいだい享保時代から明治初期にかけてだといわれています。つまり、メインは江戸時代というわけです。

    そして「なぞかけ」が流行していた場所はどこかというと、江戸や上方(京都・大阪)。つまり広い意味での町人が、この文化を担っていたわけです。

    だから、「なぞかけ」は江戸っ子っぽいのです。