アナグラム:「つづり」を並びかえ意味の違う文(単語)を生む
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アナグラム あなぐらむ anagram

『ツイてるカノジョ』1巻[上]101ページ・[下]115ページ(雑破業・藤真拓哉/角川書店 角川コミックスドラゴンJr.)
  • 七弦たち「昨日より ノ……ウ……
  • [[spbコ……エ……」
  • 「ン……キ……」
  • 詠太郎「なんだこりゃ?
  • わけわかんねーぞ」
-----
  • 七弦「じゃあもしかして
  • こっくりさんも………」
  • 「あッ!
  • 『金庫の上(キンコノウエ
  • じゃなくて
  • 『公園の木(コウエンノキ)』
  • だったんだ!」
-『ツイてるカノジョ』1巻[上]101ページ・[下]115ページ(雑破業・藤真拓哉/角川書店 角川コミックスドラゴンJr.)
  • 定義重要度3
  • アナグラムは、「文」とか「単語」を書くときに使っている「つづり」。この「つづり」を、もとのものから並びかえることによって、意味の違う、べつの文(単語)を生み出すというものです。

  • 効果

  • 効果1別のことばをつくる——「ナゾ解き」

  • この「アナグラム」には。よく見てみると、2つのタイプがあります。
    その1つ目は、もともとの「つづり」を並びかえることで、意味の通じるようなべつの文・単語をつくるというものです。画像で引用したのは、このタイプです。こちらは、ふつう「ナゾ解き」に使われます。
  • キーワード:読みとる、読み解く、解読する

  • 効果2これまでなかった、新しいことばをつくる——「暗示」

  • 「アナグラム」の2つ目。こちらは、もともとの「つづり」を並びかえることで、今までになかった新しい単語をつくり出すというものです。こちらは、もともとあった「単語」か「文」を、「ほのめかす」とか「暗示」するとかいったことに使われます。
    こっちについても、下の《レトリックを深く知る》のほうに、くわしく書いておきました。
  • キーワード:暗示する、ほのめかす、におわせる、二重・二重性、重なる、重なり合う、ダブる

  • 効果3「アナグラム」をつくること自体が、文字あそびになる

  • 「アナグラム」は、一種の「文字あそび」になります。これは、「アナグラム」つくることに「制限」や「制約」があるからです。つまり、もとの「文」や「単語」で使っていた「つづり」の文字を、すべて並べなおして利用しなければいけない。そのことから、「アナグラム」を新しくつくることが「遊び」となるのです。
  • キーワード:ことば遊び、いろは歌、文字遊び、文字遊戯
  • 使い方
  • 使い方1「ひらがな」か「カタカナ」になおしてから、入れかえる

  • 単語(または文)を、ぜんぶ「ひらがな」か「カタカナ」になおす。そのうえで、「ひらがな」「カタカナ」の順番を入れかえる。これが、日本ではメジャーです。
  • 使い方2「アルファベット」のつづりを入れかえる

  • ヨーロッパのばあい、「アルファベット」のつづりを入れかえることを、「アナグラム」といいます。日本語がもっている「漢字」のようなものが、ヨーロッパにはありません。ですので、「アルファベット」の順番をかえるだけで「アナグラム」になります。
  • 使い方3日本語をローマ字になおしてから、入れかえる

  • 細かいことは、下のほうに書いてあるのですが。日本語で、「ひらがな」「カタカナ」になおしたもので「アナグラム」をつくるのは、かなり難しいのです。なので、日本語を「ローマ字」にしてから「アナグラム」をつくる。この方法で「アナグラム」をつくることも、ありえます。
  • 例文を見る)
  • 例文は、『ツイてるカノジョ』1巻。

    主人公は、詠太郎(えいたろう)。
    …なのだけれども。
    このシーンを説明するためには、七弦(なつる)を中心に見ていったほうが分かりやすい。だから、七弦(なつる)の目から見たかんじで、ストーリーの流れを追ってみます。

    七弦(なつる)は、詠太郎(えいたろう)と子供のころからの幼なじみ。で、同じクラスメイトどうしの高校生。七弦は、詠太郎のことを「詠太郎(エイタロ)ちゃん」と呼んでいたりして、かなり親しい仲だった。

    で、ある日。
    七弦は詠太郎に、いっしょにマリンパークに行くようにさそった。七弦は詠太郎に、デート気分でマリンパークに行きたいと言った。それにたいして詠太郎は、友だちづきあいとして、2人で行くことにした。まあ、そのへんは置いておくとして、とにかく2人で休日を共にする。

    が。
    その日、七弦はキーホルダーをなくしてしまう。このキーホルダーは、七弦にとってスゴく大切な物だった。

    そこで七弦は、同じクラスメイトの風間という女の子に頼ってみることにした。というのも、この風間という女の子は、とっても霊感がある(みたい)だから。なにやら「オカルト研究会。」というものに入っているし(ほかにメンバーはいるのだろうか?)。いろんな人生相談とかもやっているみたいだったので。

    そういったわけで。七弦は風間に、キーホルダーがどこにあるのか占ってもらうことにした。すると、風間が取りだしたのは、一枚の紙。この紙は、「こっくりさん」に使うことでよく知られているかんじのものだった。

    というかんじで、「こっくりさん」にキーホルダーを落とした場所をたずねているのが、画像の上にあるシーンです。

    結果。
    ノ コ エ ウ ン キ

    というお告げでした。

    七弦たちは、はじめこのお告げを「キンコノウエ」と並びかえた。なので、「金庫の上」にキーホルダーがあるのだと思った。
    …が。見つからない。

    と、悩んだのだけれど。七弦は、気がつく。このお告げは、「キンコノウエ(金庫の上)」ではなくて、
    コウエンノキ=公園の木

    なんじゃないかって。[br]]といったわけで。最終的には、公園にある木の上で、七弦はキーホルダーを発見する。

    とまあ、そういったかんじでストーリーは進んでいくのだけれど。ここでのポイントは、文字の並びかえをしているということです。つまり、
    ノ コ エ ウ ン キ (こっくりさんのお告げ)
       ↓
    [[spbキンコノウエ=金庫の上
    コウエンノキ=公園の木

    という順番の入れかえをしている。ここの部分を、「アナグラム」というふうに考えます。
  • 例文を見るその2)
  • 『生徒会の一存』4巻90~91ページ([原作]葵せきな・[漫画]10mo/富士見書房 ドラゴンコミックスエイジ)
    • 真冬「まぁまぁ…
    • とにかくやってみて下さい」
    • くりむ「……まったく」
    • (画面(十異世界
    • くりむ「じゅう…
    • 何て読むのこれ?」
    • 真冬「〝とおいせかい〟ですよ」
    • 「このような意味を込めた
    • 素晴らしいタイトルです」
    • (■十の異世界
    •  ■遠い世界
    • アナグラムでで
    • せいとかい〟)


    すぐ上に引用した画像は、『生徒会の一存』4巻から。

    ここは、生徒会室。

    このシーンには、2人の登場人物がいます。右の画像の1コマ目に描かれているのが、その2人です。このうちで左にいる小さい女の子が、生徒会長のくりむ。そして、その右にいるのが、会計の真冬となります。

    とはいいつつも。生徒会らしい活動をしていることはめったにない。

    今回も、そのご多分に漏れず一風かわった活動をすることになる。

    くりむ(生徒会長)が、
    「RPGなんて何が面白いのか全然判らない!」
    ]
    と言ったことで、話がはじまる。そしてなぜか、くりむ(会長)が満足てきるようなPRGをつくる。それも、ほかの生徒会員のメンバーで。そういった成りゆきにってしまう。

    そして、1週間。そのRPGが完成する。そのPRGのタイトルが「アナグラム」になっているというわけです。なにせ、PRGを作った真冬が自ら「アナグラム」だと言っているのだから。
    なお、確認しておくと次のとおり。

    やや無理があるかと、思います。ですが、いちおう「アナグラム」だということができます。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1別のことばをつくる——「ナゾ解き」
  • まず。別のことばをつくる——「ナゾ解き」のほうから、説明していきます。

    こちらに当てはまるものとしては。上に画像で引用したものが、ピッタリといえます。つまり、なにか与えられたことばが使っている「文字」を並べかえて、ほかの違ったことばをつくる。まずはこれが、「アナグラム」を使われる理由の1つ目です。

    この、1つ目のもの。つまり、 もともとの「つづり」を並びかえることで、意味の通じるようなべつの文・単語をつくるというタイプのもの。

    こちらだと、多くのばあい「ナゾ解き」で使われることになります。いいかえれば、一種の「暗号」として役立つことになります。

    字の並びかたがバラバラで全く意味が分からない。もしくは、いちおう文(単語)としては成立しているけれども、そのまま読んだのでは意味を成さない。そういったものが、「アナグラム」によって解決されるというわけです。

  • 深く知る2これまでなかった、新しいことばをつくる——「暗示」
  • つぎに書いた、これまでなかった、新しいことばをつくる——「暗示」というもの。つまり、もともとの「つづり」を並びかえることで、今までになかった新しい単語をつくり出すというタイプ。こちらについて解説していきます。

    こちらだと、多くのばあい「新しい地名・人名をつくる」といった使われかたをします。つまり、作品に出てくる「人の名前」や「場所の名前」と名づけるとき、「アナグラム」を使う。そうすることで、一見するとたしかに、いままで見聞きしたことのない人名や地名にかんじる。だけれども、そのウラには、「アナグラム」を使う前の意味が隠れている。つまり、「アナグラム」のもとになったことばを暗示することになる。といった、そういったことになるわけです。

    これが、暗示というわけです。

    そして。この「暗示」というパターンでの「アナグラム」は、「ペンネーム」で使われることが、よくあります。ようするに、その本を書いている作者の「本名」に使われている文字を、「アナグラム」する。そうやって、バラバラにして新しくつくった並びかたを「ペンネーム」として使うといったことです。

    マンガ家のペンネームには、このタイプの「アナグラム」は多くはみられません。小説家のあいだで使われることが多いようです。

    なお、たしかに「アナグラム」を、こういったかんじで2つのパターンに分けるというのは、あまり一般的なものではないかもしれません。ですが、この2つのパターンによって、その使われる目的が大きく違っていると思われたので、説明を書いてみました。

  • 深く知る3日本語での「アナグラム」の難しさ
  • ざっくり言って。日本語で「アナグラム」をつくるのは、大変です。難しいです。悩みます。

    なぜなら。
    日本語では、多くのことを少ない文字数の「ひらがな」「カタカナ」で伝えることができる

    からです。
    つまり、あるモノゴトを書こうとするとき。日本語だと、少ない数の文字(=「ひらがな」「カタカナ」)で伝えることができる。なのに、英語などのヨーロッパのことばでは、たくさんの文字(=アルファベット)を連ねる必要があるのです。

    では、なぜ。
    日本語で「アナグラム」をつくろうとするときに、このことが大きな障害となってしまうのか。それは、
    並んでいる文字の数が多ければ多いほど、圧倒的に「アナグラム」を作りやすい

    からです。

    やや、極端な例として。
    たとえば、
    「ダイガク」 =(大学)

    という4文字。これをランダムに入れかえると、できる配列は計算上、
    24通り  ( =4! =4×3×2×1 )

    です。けれども仮に、ほぼ同じ意味の、
    〝 university 〟

    という11文字。これも同じようにランダムに並びかえると、できる配列は計算上、
    9916800通り ( =11! =11×10×…(長いので省略)…×3×2×1 

    ということになります。まあ、本当は「i」がダブっているので、少し減ります。このダブっている部分を考えに含めれば、計算上は半分ということになるので、19958400通りになります。

    もちろん。この「大学」という例は、かなり極端な単語のばあいだということはいえます。また、英語のばあいには、AからZあわせて26文字しかないということも考えに入れる必要もあります。

    だけれども。「24通り」VS「39916800通り」という、これだけの差ができてしまうということ。このことは、日本語を使った「アナグラム」が作りにくいということを強く感じさせます。

  • 深く知る4ローマ字にして「アナグラム」をつくる
  • と、上で見てきたように。
    日本語の「ひらがな」「カタカナ」を並べかえるという「アナグラム」は、レベルが高いといえそうです。

    そこで。
    一部では、「ローマ字」にする、といった方法がとられるばあいがあります。つまり、「ひらがな」とか「カタカナ」とかにしたものを並びかえるのではなくて、日本語を「ローマ字」にしたあとでシャッフルするということです。

    例として。
    『満月(フルムーン)をさがして』(種村有菜/集英社 りぼんマスコットコミックス)に登場する、「めろこ・ユイ」というキャラクター。

    「めろこ・ユイ」は、職業・死神。このコミックでは、亡くなった人(のうちで、ある特別な事情のあった人)が、「死神」になるという設定になっている。

    でもって。
    この「めろこ・ユイ」は「死神」をやっているんだけど、「めろこ・ユイ」というのは、「死神」になってからつけられた名前なのです。じゃあ、生きているふつうの人間のときの名前は何? となると、これは
    「里匡 萌(りきょう もえ)」

    という名前です。

    さて。話の流れとして、もちろんこの名前を「ローマ字」にした上で、「アナグラム」をしてみることになる。すると、
    めろこ・ユイ
       ↓
    M E R O K O Y U I
       ↓
    R I K Y O U M O E
    里匡 萌(りきょう もえ)

    と。めでたく、「アナグラム」が成りたっていることが分かりました。

    というか。作者の種村有菜さんが、『満月(フルムーン)をさがして』4巻131ページにシッカリと書いていることなのですが。あ、単行本4巻にある第18話のトップ、というふうに書いたほうが伝わりやすいかな(裁ち切りが多いので、ノンブルが見つけづらい)。

    こんなふうに「ローマ字」に変えてみれば、文字の数は増えます。そして、文字の数が増えれば「アナグラム」がやりやすくなる。
    「めろこ・ユイ」だったら、並べかたは120通りしかなかった。それが、ローマ字「MEROKO YUI」にしたことによって、39916800通りになる(またもや「オーO」というダブりがあるので、もう少し減るけど)。

    まあ。こんあふうに、「ローマ字」という方法をとったとしても。
    それでも、「里匡 萌」という名前には「アナグラム」をすることの苦しさが漂っている。だって、「里匡(りきょう)」という名字は、少なくともATOKで[F2キー]を押しても変換されないし。「萌(もえ)」という名前も、彼女の生きていた年代を考えると違和感があります。

    そういった事情は、おいておくとして。
    日本語で「アナグラム」をするばあい、こんなふうに「ローマ字」を使うといったこともありえます。それも、わりと多くみかけます。
    やっぱり、ふつうに「ひらがな」「カタカナ」で「アナグラム」を考えたのでは、難しいのだと思います。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • アナグラム
  • 呼び方2
  • 綴り換え・綴り換え語
  • 呼び方1
  • 変綴法
  • 参考資料
  • ●『遊びの百科全書——1 言語遊戯』(高橋康也[編]/日本ブリタニカ)
  • 「アルファベット」を入れかえて、「アナグラム」をつくるばあい。つまり、もともとヨーロッパにあった「アルファベットのつづりを入れかえる」という意味での「アナグラム」。そのことについて、いちばん大きく取りあげて説明してあるのは、この本です。
  • ●『ことば遊びコレクション(講談社現代新書808)』(織田正吉/講談社)
  • こちらの本は。日本語の「ひらがな」や「カタカナ」を使って「アナグラム」をつくる、といったことにも話が及んでいます。つまり、たんに「アルファベット」のつづりを入れかえるということだけで、説明を終わらせているのではないのです。そのあたりに、ちょっとした独自性があります。
  • 余談

  • 余談1「めろこ・ユイ」という名前について、長々と語る
  • 例として出てきた、「めろこ・ユイ」という名前。これがアナグラムになりにくい理由は、かならずしも「日本語だから」というわけではありません。つまり、一般論として「ローマ字にしても日本語ではアナグラムが作りにくい」とは、言い切れません。

    では、なぜ「めろこ・ユイ」ではアナグラムをつくりにくいのか。その原因として、私(サイト作成者)の思うところでは2つが考えつきます。

    ですので、ちょっと書いておきます。あくまで、想像の域を出ないものだけれども。

  • 余談2理由その1。「めろこ・ユイ」には「Y」という文字がある
  • 「めろこ・ユイ」をローマ字にすると、「Y」の文字が出てきます。「ユイ」が「YUI」になるからです。

    そこで問題となるのが、この「Y」の使いかたです。どうしても、日本語では「Y」となるものの使いみちが限られるのです。

    「Y」をアナグラムとして利用する方法としては。まず、「ヤ行(=や・ゆ・よ)」の時に使うことが考えられます。

    ですが、こまったことに。
    まず、ヤ行には「や・ゆ・よ」しかないのです。つまり、「ヤ行」には「い段」と「え段」にあたる文字がないのです。

    くわしくいうと。

    「Y」+「I」というものは、もともと日本語には存在すらしていません。
    また、「Y」+「E」は「いぇ」ということになりますが、これも「イェ〜イ」なんていうのを除けば、外国の地名や人名といったものにしか使いません。ようするに、実際には「や」「ゆ」「よ」の3文字だけということになります。(厳密に書けば、「ヤ行のエ段については、平安ごろには日本語からなくなった(ア行にまとまった)」ということになるけど。まあ、この流れの中では書かなくていいことだという気がする。)

    それに加えて。
    日本語は、「や」「ゆ」「よ」という文字そのものが、あまり使われないものなのです。このことについては、細かい理論を書いておくよりも、かんたんに実感してもらうことができます。もしあなたの近くに「国語辞典」「百科事典」のたぐいがあったら、ちょっと開いて見てください。明らかに、「ヤ行」のページが少ないことがわかります。これはつまり、日本語ということばで「ヤ行」を使うこと自体が少ないということです。それはつまり、「Y」という文字を使うこともあまりないということです。