漸降法:だんだん言葉を弱めていって茶化したりする
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漸降法 ぜんこうほう anticlimax

『天正やおよろず』1巻137ページ(稀捺かのと/エニックス GANGAN WING COMICS)
  • ライル(シュタタタタタ)
  • ↑だんごを素早く作る音
  • 観衆「 おおー!!速ーっ!!」
  • ライル 「 よし!!
  • このくらいでいいか」
  • 観衆 「おおー[
  • すごい量だー」
  • ライル 「 この中で
  • 一番いいのは…」
  • (じっ…)
  • 観衆A「おお さすが
  • ライルくん!!
  • 観衆B「さすが 職人!!
  • 観衆C「さすが こり性!!
  • 観衆D「さすが 神経質!!
  • 観衆E「さすが 苦労人!!
  • 観衆F「さすが 胃炎持ち!!
  • ライル「だまってろーっ!!!
  • (集中 できんわー!!)」
-『天正やおよろず』1巻137ページ(稀捺かのと/エニックス GANGAN WING COMICS)
  • 定義重要度2
  • 漸降法は、だんだん言葉を弱めていくレトリックです。つまり、次第にトーンダウンしていくというものです。言いかえれば、ことばの順を追って、次第に勢いをおとろえさせるものです。

  • 効果

  • 効果1たんだんと尻すぼまりになる

  • 「漸降法」では、次第に尻すぼまりになることによって、結果として竜頭蛇尾に終わることになります。
  • キーワード:尻すぼまり、すぼむ、すぼまる、すぼめる、つぼむ、つぼまる、つぼめる、後戻り、減退、退行、竜頭蛇尾、挫折、腰くだけ

  • 効果2おもに自らを、茶化すことになる

  • 多くのばあい、あざけったり茶化したりする対象は自分自身です。つまり、言いかえれば「自嘲」ということになります。
  • キーワード:自嘲、揶揄、からかう、ひやかす、ひやかし、茶化す、はやす、はやしたてる、あざける、あざけり、もてあそぶ

  • 効果3上品だったものを、だんだんと滑稽な表現にしていく

  • その話は、さいしょは高級で上品たっだ。だけれど、だんだんと下らないほうへ転落してしまう。最後には、取るにたらないようなナンセンスなものになってしまう。このプロセスのばかばかしさが、「漸降法」の特徴です。
  • キーワード:滑稽、下らない、ナンセンス、ばからしい、ばかばかしい、おもしろい、おかしい、ユーモア、ユーモラス、皮肉、皮肉る、アイロニー、諷する、当てつける、当てつけ、当てこする、笑い、笑う、オチ、話題、些細、わずか、たった、微々、微少、ちょっと、大して、あまり、軽少、取るにたらない
  • 使い方
  • 使い方1しだいに、段階をふんで表現を弱めていく

  • 表現を、強いものから弱いものに、または深いものから浅いものにする。べつの言いかたをすれば、大きなものから小さなものに、だんだんと調子を弱める。そのことによって。「漸降法」を作ることができます。
  • キーワード:弱める、弱まる、傾く、傾ける、衰える、衰微、消沈、低落、凋落、だんだん、次第に、徐々に、少しずつ、トーンダウン
  • 例文を見る)
  • 引用は、『天正やおよろず』1巻から。

    暦は天正、のちに安土時代と呼ばれるころ。この時代には、「喰(じき)」と呼ばれる魔物がよみがえろうとしていた。
    その「喰」に立ち向かおうというのが、このお話のメインの登場人物。主人公の「ライル」と、「薙刃(なぎは)」「鎮紅(しずく)」「迅伐(はやぎり)」という3人の少女。

    なのですが、これまた引用した部分は、そういった設定とはあまり関係ありません。
    では、一体どういう場面なのかというと、次のようになります。

    甘味処「さくら亭」で、リニューアルオープン記念目玉イベントがはじまった(130ページ)。このイベントは、素人が「だんご」を作って、そのできばえを競争する、というもの。

    「ライル」たちメインキャラの4人も、このイベントに参加することにする。一位を勝ち取った人に贈られる景品になっている「豪華温泉ご招待」。これに、つられたみたいです。

    で、4人それぞれの作りかたを見てみる。すると、「ライル」が「だんご」を作る速さは、ものすごい。たちまち、すごい量になる。

    それを観ていた人々の声が、「漸降法」になっていると考えます。

    はじめは、
    おお さすが
    ライルくん!!

    というように、ほめています。ですが、
    さすが こり性!!

    のあたりから、段々と雲行きがあやしくなっていきます。で、
    さすが 神経質!!

    というあたりまでくると、もうこれは「ほめことば」ではなくなっています。そして最後には、
    さすが 胃炎持ち!!

    とまで言われてしまいます。

    このように、「さすが」とほめていたことばが段々と弱まって、最後には「胃炎持ち」とまで言われてしまいます。このことばのならび方を、「漸降法」とします。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「漸降法」の典型的な例
  • この「漸降法」の例としては、
    十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人

    といったようなものが、あげられます。順を追ってだんだんと、トーンダウンしている表現だといえます。

  • 深く知る2「漸降法」とほかのレトリックとの関係
  • 「漸降法」と「 漸層法(広義の)」。この2つは、だんだんと段階を踏んでことばをつなげていくところは、同じです。そのため、「漸降法」を「 漸層法(広義の)」に1つにまとめるばあいもあります。

    ですがこのサイトでは、「漸降法」と「 漸層法(広義の)」との「効果」には大きな違いがあることから、これを分けて説明することにしました。

    そうするとこの「漸降法」は、「 漸層法(広義の)」」の小分類のひとつに当たると位置づけることができます。

    つまり。
    おおきく、「 漸層法(広義の)」と呼ばれるレトリックには、
    • 漸層法(狭義の)」:ことばを、段階を追って強めていくもの(もっとも典型的な「漸層法」)

    • 漸降法:ことばが、段階を追って弱まっていくもの

    という、2つのパターンがあるということになります。

    くわしくは、「 漸層法(広義の)」のページを、参照してください。

    また「漸降法」は、ちょうど「 漸層法(狭義の)」を逆転させたものにあたります。

    そのため、原理としては「 漸層法(狭義の)」と「漸降法」は、同じようなものということができます。したがって、表現によっては「 漸層法(狭義の)」なのか「漸降法」なのか、はっきり区別するのが難しいものもあります。

    ですが。
    いちおう理屈としては、つぎのようなことがいえます。それは、>「 漸層法(狭義の)」:「伝えたいメッセージ」のレベルが、だんだんと強くなっているもの

    「漸降法」 :「伝えたいメッセージ」のレベルが、だんだんと弱くなっているものということです。つまり、「伝えたいメッセージ」を基準として考えることになります。あくまでも、そのことばを発言した人、書いた人、表明した人が、「その度合いが高い」とおもっていること.。それが、わかれ目となるわけです。

  • 深く知る3このことを、もうすこし分かりやすくするために。
  • 『魔法先生ネギま!』1巻31ページ(赤松健/講談社 少年マガジンコミックス)
    • アスナ「 そ そんなぁ
    • アタシ こんな子 イヤです
    • さっきだって
    • イキナリ失恋…
    • いや 失礼な
    • 言葉を私に……」
    • ネギ「いや でも
    • 本当なんですよ」
    • アスナ「本当
    • 言うな!」
    • 「大体 あたしは
    • ガキがキライ なのよ!
    • あんたにみたいに
    • 無神経で
    • チビでマメで
    • ミジンコで…
    • ネギ( むーっ)


  • このことを、もうすこし分かりやすくするために。
    ひとつ、例をあげてみます。

    引用は、『魔法先生ネギま!』1巻から。

    主人公は、ネギ。10歳。イギリスで、魔法使いの修業をしていた。
    そして、その修業の締めくくりとして。日本で英語の先生をするように、という指示が出る。

    そういったわけで。わずか10歳なのに、先生ということになった。しかも、日本で英語を教える相手は、うら若き女子中学生。

    そして、アスナ。彼女は、その「うら若き女子中学生」のうちの一人。そして、かいつまんでいえば「年上が好き」。それは、ウラを返せば「ガキがキライ」ということになる。

    そのこともあって、ネギ(10歳)が担任になると知って、猛烈に抗議して怒りをあらわにする。それが、引用のシーンです、
    チビでマメで
    ミジンコで…

    ま、つまり。「ガキがキライ」なのです。

    ここで問題としたいのは。
    この表現が、いったい「 漸層法(狭義の)」と「漸降法」の、どちらであるというかということです。

    結論をいえば。これは、「 漸層法(狭義の)」にあたります。つまり、表現のトーンを次第に強くする、というパターンのほうなのです。

    つまり、ここでアタマに置いておかなければいけないことは。けっして、表現している中身を見て「背が低くなっている」ということに、まどわされてはイケナイということです。

    もちろん。
    「チビ」と「マメ」と「ミジンコ」の3つで、大きさをくらべれば。あきらかに「だんだんと大きさが小さくなっている」。いいかえれば「だんだんと背が低くなっている」はずです。

    ですが。
    ここで、アスナが主張していることは。あくまで、「背が低い」ということ(を非難するというもの)です。ちょっと分かりにくく書けば。アスナが言いたいのは、「背の高さ」ではなくて「背の低さ」なのです。

    したがって。ここで使っているアスナのセリフは、
    (×) メッセージのテーマとなっている「背の高さ」というものが、だんだんと弱くなっている。

    と考えて、「漸降法」にはしません。

    そうではなくで、
    (×) メッセージのテーマになっている「背の低さ」というものが、だんだんと強くなっている。

    と考えて、「 漸層法(狭義の)」というほうになります。

  • 深く知る4「漸降法」の効果
  • 「漸層法」の効果を、このページの一番上に書きました。これをさらに考えていくと、つぎの2つのことがいえます。

  • 深く知るaじつのところ、「漸降法」にあてはまる例は、ほとんどない
  • ほとんどのばあい、人はなにか自分のもっている考えかたを伝えるために、ことばを並べます。そして、よりよくメッセージを伝えるためには、いちばん最後にくることばを、いちばん印象的にしたほうがいいのです。

    そしてそのためには、「だんだんと調子を強くする」という方法をとることになります。それはつまり、「漸降法」ではなく「 漸層法(狭義の)」になるのです。

    そのため。「漸降法」は、ほとんど見かけません。

  • 深く知るb「漸降法」は、表現をおもしろくする効果がある
  • というか。「漸降法」には、表現をおもしろくする効果くらいしかありません。

    いちばん最初に例文としてあげた、
    十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人

    というのも。世の中の考えかたに、からかい半分の視線を向けているといえます。

    『レトリックの体系』などを書いている中村明氏が、いろんな本で「漸降法」の例としているのは。
    俺は浮気はしない たぶんしないと思う しないんじゃないかな ま、ちょっと覚悟はしておけ

    というもの。もちろん、さだまさしの「関白宣言」にあるフレーズです。(作詞・作曲:さだまさし)

    この例文でも。やっぱり、滑稽さを出してくるといったものです。というかこの歌詞を、だんだんトーンダウンして滑稽さを出している「漸降法」と読むことのできない人。そういった人たちが、この歌詞にたいして騒動を起こすことになる。

    とにかく。
    この「漸降法」では、コミカルさを出すということはできます。ですが、マジメに語ることはできません。

  • 深く知る5用語の不統一について

  • 深く知るaちょっとした用語の不統一について
  • この「漸降法」に近いレトリック用語として、
    • 「漸降法」

    • 「反漸層法」

    • 頓降法

    という日本語のレトリック用語と、それに対しての、
    • bathos

    • anticlimax
    という英語のレトリック用語があります。

    この用語をどのように区別するかについては、統一されていないように思われます。そもそも、日本語のほうには3つの用語があるのに、英語のほうには2つしか用語がない。そういったことからみても、まだ統一された考えかたがない、ということを物語っています。

    この点についてこのサイトでは、次のように区別することにします。

    頓降法」(=bathos)は、ことばが段々と盛り上がっていったあとに、最後で急にストンと落とすというレトリック。

    「漸降法」(=anticlimax)、は、ことばが段々と弱まっていくというレトリック。

    そして、あまってしまった「反漸層法」については、「漸降法」の別の呼び方だということにします。

    ただしこの区分は、あくまでも、ひとつの考えかたです。他の人が書いた本だとか、他の人が作ったサイトでは、違った説明がされている場合があります。
    ですので、その解説をしている人が、どのような区別をしてレトリック用語を使い分けているか。そこのところを、よく見きわめて下さい。

  • 深く知るbちょっとした用語の不統一について——つづき
  • また、『レトリック事典』によると、
    anticlimax

    というレトリック用語には、この「漸降法」とは違った意味もあるらしい。つまり、まるで「山」のように、だんだん登っていって頂上に着いたら今度はだんだん降りてくる。そういったものも、anticlimaxに含めるらしい。

    …分類するのが、さらに混乱するのですけれども。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 漸層法・漸層
  • 呼び方2
  • 下降的漸層法・アンチクライマックス
  • 参考資料
  • ●『センスをみがく文章上達事典』(中村明/東京堂出版)
  • 「漸降法」について書かれています。それほど大きなスペースをとっているわけではありません。ですが重要な部分について、簡にして要をえた説明がされています。
  • ●『言葉は生きている—私の言語論ノート—』(中村保男/聖文社)
  • 例文をあげつつ、解説をしています。「漸降法」というマイナーなレトリック用語が、かなり堀さげてあります。