虚辞:同じフレーズをくり返す
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畳句法 じょうくほう gemination

『とある魔術の禁書目録(インデックス)』1巻44ページ(鎌池一馬[原作]・近木野中哉/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • インデックス「おなかへった
  • おなかへった
  • おなかへった
  • おなかへった
  • って言ってるんだよ?」
-『とある魔術の禁書目録(インデックス)』1巻44ページ(鎌池一馬[原作]・近木野中哉/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • 定義重要度2
  • 畳句法は、同じ(または、「ほぼ」同じ)フレーズをくり返すレトリックです。

  • 効果

  • 効果1おなじフレーズをくり返すことで、強調をする

  • このレトリックの効果は、おもに伝えたいことの強調です。これは、同じことばがくり返される「 反復」に分類されるレトリックに共通したものだ、ということができます。
  • キーワード:強調、強い、強まる、強める、強化、増強
  • 使い方
  • 使い方1同じ句を、何度もくり返す

  • 「畳句法」でくり返されるのは、フレーズです。つまり、いくつかの単語がくっつくことで「フレーズ」が生まれる。これを何回もくり返すことで、「畳句法」となります。
  • 例文を見る)
  • はじめの画像は、『とある魔術の禁書目録(インデックス)』1巻から。

    主人公は上条当麻。
    ある日の朝のこと当麻は、住んでいるマンションのベランダに目を向ける。すると、ベランダに何かが引っかかっているのを見つける。あやしく思って近づいてみると、それは女の子だった。

    そのあやしい女の子は、のちに「インデックス」という名前だと分かる。

    で、彼女(のちに「インデックス」という名前だと分かる)が言うには、
    • インデックス「おなかへった
    • おなかへった
    • おなかへった
    • おなかへった
    • って言ってるんだよ?」
    と、「おなかへった」が4度も出てくる。これが、「畳句法」というわけです。

    このばあいには、「インデックス」の気持ち、「おなかへった」を強調したモノになっています。
  • 例文を見るその2)
  • 短編「ハート型バクダン」 『ラブリーニュース』140ページ所収(藤井明美/集英社 マーガレット コミックス)
    • ハルちゃんなんか
    • ハルちゃんなんか
    • ハルちゃんなんか
    • ——————っっ


    つぎの例文は「ハート型バクダン」(『ラブリーニュース』所収)。

    新しくバイトとして入ったのが、主人公の深浦有生という女の子。

    彼女がバイト先に選んだところで副主任をしているのが、塚田晴哉という男の人。有生は、晴哉こと「ハル」のことが、子供のころから大好きだった。

    その恋の強さは、ふつうではない。なんと「今までに5回告って
    5回とも『カノジョがいる』ってフラれた」(122ページ)のにもかかわらず、それでもアタックするという強さ。6歳の年の差なんて、全く気にしない。

    で、6回目の告白する。しかし、
    • 「おまえ以外の若くてピチピチの[li]]オンナノコなら大歓迎だね」
    • 「あーうるせーっ とっとと仕事戻れ」
    • (138〜139ページ)
    と言われ、みごとに玉砕。

    その玉砕した結果が、引用のシーン。
    • ハルちゃんなんか
      ハルちゃんなんか
      ハルちゃんなんか
      ——————っっ
    と、「ハルちゃんなんか」と同じ文をさけんでいるのが、「畳句法」にあたります。
  • 例文を見るその3)
  • もっと、異様なほど何度も繰り返されているものとして、『美鳥の日々』(井上和郎/小学館少年サンデーコミックス)の、4巻183ページ。

    設定を説明すると長くなる。だけれど、場所の関係で必要な情報だけを説明すると、こんな感じになる。

    真行寺耕太は高校1年生。不良に捕まっているところを、このマンガの主人公である沢村正治という高校2年生に助けられる。以来、耕太は正治のことを尊敬…、というよりは「好きになってしまった」のです(書くまでもないけど、耕太も正治も「♂」なんだけど)(2巻121ページあたり)。

    そんなある日。耕太はちょっとした用事で、正治の家を訪ねる(この「ちょっとした用事」のほうがこのマンガの主題なのだけど)。
    そこで、話しの流れで、耕太は正治の家に泊まることになる。正治のとなりで寝るという耕太にとっての緊張のシーンが、ひたすら「畳句法」で書かれています。
    • さ…
    • 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと…
    • 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと…
    • 沢村さんと… 沢村さんと…」(4巻183ページ)
    これ、10回も繰り返している。こんなにくり返しているのは、やっぱり緊張感を「強調」するためでしょう。
    私の目から見ると『美鳥の日々』も、レトリックがたくさん使われているマンガです。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「畳句法」と「畳音法」「畳語法」との関係

  • 深く知る2訳語の「gemination」について。
  • あえて、「畳句法」と「畳語法」とのあいだに、
    • 畳句法 : フレーズのくり返し。つまり、文とか句とかを反復するばあい
    • 畳語法 : ことばのくり返し。つまり、単語とかを反復するばあい
    といった区別をつけるなら。
    • 畳句法 → gemination
    • 畳語法 → epizeuxis
    というレトリック用語を対応させるのが、ふつうのようです。

    たとえば。
    『OED』では“epixeuxis”について、“... a word is repeated...”という説明になっています。「1つの単語(a word)」というふうに単数形で書いてあります。

    このことからすれば。
    “epixeuxis”というレトリック用語が使われるのは、「単語」の反復に限られる。そのように考えられているのだと思われます。

    また。
    『一般修辞学』とか、『美学』(バウムガルテン[著]、松尾大[訳]/玉川大学出版部)あたりを参考にしたところ。同じように“epizeuxis”は「単語1つのくり返し」、“gemination”は「フレーズ(語群)のくり返し」と分けているようです。

  • 深く知るa「gemination」という用語の領域
  • とはいっても。
    「gemination」というレトリック用語も、「epizeuxis」というレトリック用語も、たいして違いはありません。なので、「gemination」というレトリック用語でもって、「フレーズのくり返し」と「ことばのくり返し」の両方を含めるほうが一般的です。

  • 深く知るb「gemination」のスペルについて
  • 「gemination」は英語っぽいスペルの書きかたです。「geminatio」というふうに「n」を書かないとラテン語っぽいスペルになります。ですが、どちらであっても同じものです。こんにちでも、「geminatio」というスペルのほうも、よく使われています。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 畳句・畳句法
  • 別の意味で使われるとき
  • ●「子音が重なっている」という意味の「gemination」
  • この「gemination」という単語。じつは言語学では、べつの意味で用いられています。言語学では「gemination」でもって、「子音が重なっている」というようなことを表します。漢字で書くと、「二重子音化」とかいったことになります。

    たとえば、「勝った」とか「売った」ということばを発音するときに「t」という子音がダブって出てくる。こういったものを言語学では、「gemination」といいます。

    ですが。

    このサイトで説明している「gemination」というヤツは。あくまで、レトリック用語のほうの「gemination」です。
  • 参考資料
  • ●『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
  • 「畳句法」について、かなりくわしく書いてあります。「畳語法」とは別に「畳句法」を紹介している本は、それほど多くありません。その中で、かなり「畳語法」に力を入れて説明が書かれているのは、この本多と思います。
  • ●文法でつかう、「虚辞」という用語——「文法的虚辞」
  • 「虚辞」という用語。伝統的に文法の世界では、これを少し別の意味で使います。たとえば、“It's raining again!”といったときの“It”は、カタチだけ置かれているだけのものです(形式的主語)。文法では、こういったものを「虚辞」と呼ぶことがあります。
    もちろんこの“It”は、文を組みたてるためには必要です。けれども、この“It”に実質的な「代名詞〈それ〉」といったような意味はありません。なので、「虚辞」ということになるわけです。厳密に、この文法での意味だけを指ししめしたいときには「文法的虚辞」という言いかたをします。
  • 余談

  • 余談1『美鳥の日々』の作者について
  • ひとつ、『美鳥の日々』の作者について。

    この『美鳥の日々』を描いた井上氏は、かなりの知識人だと思います。

    例えば、7巻で「ケンカ野球」をする場面(7巻・DAYS 69)。
    対戦しているチームの名前は、「腐露威吐」と「苦璃無斗」というチームです。暴走族のグループ名みたいな、無理矢理の当て字です。そして、「腐露威吐」は「フロイト」、「苦璃無斗」は「クリムト」という読みかたをします。

    ですがこの「フロイト」と「クリムト」というのは、実在の人の名前なのです。2人とも、19世紀のドイツ語文化圏の人です。
    「フロイト」はまだ有名だとしても、「クリムト」の名前がさりげなく出てくるあたり、かなりの教養のある人だと思います。

    あと、『葵DESTRUCTION!』の主人公「葵」が、抜け目なく『美鳥の日々』に登場したりしています(7巻DAY70)。自分の描いた作品の登場人物を、他の作品でも登場させるというのは、よくあることなのかな?