倒置反復法:AB−BA」という順番でことばを並べる
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倒置反復法 とうちはんぷくほう antimetabole

『鋼の錬金術師』5巻181-183ページ(荒川弘/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • せんせい「この島で
  • 一か月 あんた達
  • 二人だけで 生きのびなさい」
  • ——(ここ2コマ飛ばします)——
  • せんせい「 一か月たったら
  • 迎えに来るから」
  • エド&アル 「なっ…
  • ちょっと!!」
  • せんせい「『一は全 全は一
  • 一か月で 答えが
  • 見つからなければ
  • リゼンブールに
  • 送り帰すからね」
-『鋼の錬金術師』5巻181-183ページ(荒川弘/スクウェア・エニックス ガンガンコミックス)
  • 定義重要度2
  • 倒置反復法は、2つ同じのことばを順序を逆にして繰り返すレトリックです。つまり、「AB−BA」という順番で、ことばを並べるレトリックです。

  • 効果

  • 効果1ひっくり返して反復するので、鮮やかな文になる

  • 「倒置反復法」では、2つの同じ単語をくり返します。しかも、その2つの単語は、順番を変えながら反復することになります。ですので、かなり鮮やかなレトリックになります。
  • キーワード:鮮明、はっきり、くっきり、鮮やか、明らか、明白、明瞭、一目瞭然、見るからに、巧み

  • 効果2使ったヒトは、みずからの主張を強く示そうとしている

  • 多このレトリックは、かなり鮮やかなものです。なので、この「倒置反復法」を使ったヒトは、かなり強い主張をしていると考えられます。
  • キーワード:主張、申し立てる、言い張る、打ち出す

  • 効果3対称のカタチをとるので、調和やバランスを感じる

  • この「倒置反復法」は、「AB」の部分と「BA」の部分とが鏡のように対称になっています。そのため、かなり美しさを出すことができます。
  • キーワード:対称、つりあう、バランス、シンメトリー、調和、対比、相対する、対照、対置、対する、対照美、対応、引き合う

  • 効果4くり返しをするため、ことばを強めることになる

  • このレトリックは、ことばをくり返しています。言いかえれば、同じ単語が2回出てくるわけです。このことから、強調をすることになります。
  • キーワード:強め合う、強める、強まる、盛り上げる、尖鋭、とがった、するどい

  • 効果5ととのった、キレイな形をつくりだす

  • 倒置していて、しかも反復している。このことから、ととのった美しさのある文になります。
  • キーワード:優美、風格、切れ味、美しい、きれい

  • 効果6使い手に「才能」や「機知」があるイメージをあたえる

  • このレトリックは、かなり技術的なものです。意識せずに使うということは、まずありません。そのため、使い手に「知性」などのイメージをもつことができます。
  • キーワード:才気、才能、機知、知性、警句
  • 使い方
  • 使い方1同じカタチをした同じ単語を、くり返す

  • このレトリックは、同じ単語をくり返します。決して、同じような意味の単語とか、同じような音を持った単語では、成りたちません。まったく同じ単語をくり返します。
  • 使い方2順番を入れかえて反復する

  • たとえば、さいしょに「AB]という順番で登場したばあい。次には必ず「BA」という順番で、あらわれることになります。まあこれは、日本語ではあまり問題になることはありません。
  • 注意

  • 注意1「わざとらしさ」を感じることがある

  • このレトリックは、かなり「わざとらしさ」を感じてしまうこともあります。つまり、ことばの受け手の印象に残るように、「わざわざ」使っていると感じとられることもあります。
  • キーワード:わざとらしい、わざわざ、自発的

  • 注意2単語の結びつきが異常になることがある

  • とくにヨーロッパのことばでは、語順のルールが厳しくなっています。ですので、ことばを倒置してしまうと、文法のルールに違反してしまうことがあります。これは、日本語ではあまり問題にはなりません。
  • キーワード:不正、異常、異状
  • 例文を見る)
  • で、引用は『鋼の錬金術師』5巻。

    通りすがりに、錬金術を使う女性と出会った、エドとアルの兄弟。

    彼女の弟子にしてもらおうとして、懇願する。その結果、見習い期間として「1か月」の間、仮に弟子にしてもらい、そこで錬金術がうまく使えるようであれば本当の弟子にする、というふうに、条件付きだけれども弟子になる許可をもらう。その時からアドとアルは、彼女を「せんせい」と呼ぶようになる。

    で、弟子になって「せんせい」に列車と船で連れてこられたのが、無人島。この無人島は(無人なんだから当たり前だが)電気無し・井戸無し・雨をしのぐ家も無し。ここでの「せんせい」の言葉が、引用のシーン。

    「この島で一か月、あんた達二人だけで生きのびなさい」と言われる(引用ではカットしたけれど、「その間、錬金術使うの禁止ね」とも言われる)。そして、次のセリフの
    一は全 全は一

    というのが、「倒置反復法」にあたります。「全・一、一・全」と、交差的に言葉が並んでいます。
    エドとアルの兄弟は、無人島で1か月暮らす間に、その言葉の意味する答えを見つけなさいという課題を与えられる。
    この「一は全 全は一」という言葉の意味する答えが何なのか知りたい人は…
    『鋼の錬金術師』6巻を読んで下さい。

    置き去りにされたのは5巻なんだけど、この「一は全 全は一」の答えを「せんせい」に言っているシーンは6巻にあるんです。だから、答えのほうは、それぞれ皆さんで、6巻を読んで下さい。
  • 例文を見るその2)
  • 『葬送曲ナイトメア』1巻28ページ(亜樹新/マッグガーデン BLADECOMICS)
    • ゆゆこ(止まった…?)
    • 獏「一時休止
    • ボクができるのは
    • ここまだよ」
    • 無くして
    • もまた無し
    • があるのは
    • キミがを持っている
    • という証
    • さぁ早く見つけて
    • ボクはキミの
    • 悪夢が欲しいんだ!」


    画像は、『葬送曲ナイトメア』1巻から。

    主人公は「獏(バク)」。あだ名は「ばっくん」。

    「ばっくん」は自分について、
    人の悪夢を主食とする
    夢の住人  (3ページ)

    と、自己紹介しています。

    人間の夢には、2つの種類がある。ひとつは、希望をもって前向きに進んでいくという「夢」。もうひとつは、希望を持てずに前に進むことができないという「悪夢」。

    この2つのうち「ばっくん」は、心に「悪夢」を持っているヒトのために、お店を開いている。「悪夢」が大きくなってしまったヒトの、その「悪夢」を食べる。そうして「ばっくん」は、結果として「悪夢」を取りのぞくことになる。

    でも、「悪夢」を断ちきるためには。その「悪夢」を持っているヒトが、「悪夢」から決別する強い意志が必要となっている。

    今回、「悪夢」と戦っているのは「ゆゆこ」。彼女は、童話作家を目指して専門学校に進んでいる。けれども、ちっとも創作活動がうまくいかない。なので「ゆゆこ」は、ひどく悩んでいる。

    そして、この「悪夢」を振りはらったとき。「ばっくん」は、「悪夢」を食べる。「夢」のうち「悪い部分」を食べるのだから、まあ「獏(バク)」だということになります。

    そうやって、「悪夢」と向き合っているのが、引用のシーン。「悪夢」(=闇)と、「夢」(=光)という2つをが倒置反復法」になっている。それが、このシーンです。

    対照法・対句」のようにきちんとした対称になっていなくても、十分効果が発揮されることが分かります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「倒置反復法」と「交差配語法」との違い
  • ※ これより先は、すこし専門的なことを書きます。ですので、興味のある方だけ読んでいただければと思います。

    このページで紹介している「倒置反復法」には、似たようなレトリックがあります。それは、「 交差配語法」」というものです。

    問題となるのは、「 交差配語法」」というヤツ。これが、「倒置反復法」とはどのように違うのかということです。つまり、「倒置反復法」と「 交差配語法」」との線引きを、どのようにするか。そこに、ふれておきます。

    おおまかに見たところ、大きく分けると説明のしかたは「4通り」に分かれているようです。ですので、その4つに分けて説明をしていきます。

    なお、このサイトでは。下に書くからのうち、を採用しています。

  • 深く知るaこのサイトでの説明に近いもの
  • まず。
    このサイトが採用したのは、次のような分けかたです。

    「倒置反復法」のばあい、完全に同じことばが反復される。(AB—BA)
    交差配語法」」のばあい、意味の近いことば・似たことばが反復される。(AB—B’A’)

    というものです。

    例をいくつか書いておくと

    倒置反復法:語順が「AB−BA」となっているもの(完全な言葉の反復)
    「一は全、全は一」
    →『鋼の錬金術師』(荒川弘/スクウェア・エニックスガンガンコミックス)の、5〜6巻 ※アニメでは第28話のタイトル
    「7人が1人 1人が7人」
    →『七人のナナ』(国広あずさ・今川泰宏/秋田書店少年チャンピオン・コミックス)の、3巻177ページ
    「高校生といえばマック、マックといえば高校生だと」
    →『紳士同盟†(クロス)』(種村有菜/集英社りぼんマスコットコミックス)の、5巻116ページ

    交差配語法」:語順が「AB−B’A’」となっているもの(不完全な言葉の反復)
    「君が主で執事が俺で」(白猫参謀・皇ハマオ[著]、角川書店 角川コミックス・エース)

    となります。

    この説をとるメリット。それは、「倒置反復法」と「 交差配語法」を間違いなく見わけることができる、ということです。「A」という単語と「B」という単語があって、それが「AB−BA」とならんでいれば「倒置反復法」になります。

    それにたいして、この説のデメリット。それは、日本語のばあい「 交差配語法」にあたる文をめったに見かけない、ということです。

    私(サイト作成者)が、コミックスの中で「 交差配語法」がにあたるとハッキリと言える例。それは、今のところ『君が主で執事が俺で』というタイトルしかありません。

    なぜ、この「 交差配語法」が数少ないのかというと。

    実に使おうとしても、日本語ではインパクトの強い文章になりにくいからです。つまり、なにか「仕かけ」をしたフレーズだとは気がついてもらうことができにくい。そのため、そのまま気づかずに通り過ぎてしまう読み手=聞き手が多くなる。となれば、書き手=話し手としては、できればそういったことになるのは避けたい。

    結果として、「 交差配語法」が使われることがあまりない。

    とまあ、こんな事情が原因になっているのではないかと思います。

    なお、この説をとっているものとしては、
    『レトリック辞典』

    があげられます。

  • 深く知るb「交差配語法」と同じだとするもの
  • これは、「 交差配語法」」という用語と同じだとする考えかたです。この説をとっているものとしては、
    『レトリックの本(別冊宝島 25)』(石井慎二[編]/JICC出版局)

    をあげることができます。この本には、
    倒置反復(Antimetable)——順序を逆転して繰り返す。交錯配語法と同じ

    と書かれています。そして、「交錯配列法」というのは、「交差配語法」と同じ意味の用語です。なので、明らかに「同じ」ものだということになります。

    ですが。
    この説では、同じ意味のレトリック用語が2つあることになります。そしてそれは、腑に落ちない感じがします。ですが、それ以外のことについては納得のいく説明だといえます。

  • 深く知るc「交差配語法」と「倒置反復法」との区別を考えないもの
  • これは。
    「交差配語法」と「倒置反復法」との区別を、とりたてて問題としないというものです。
    『現代言語学辞典』(田中春美[編集主幹]/成美堂)
    『現代英語学辞典』(石橋幸太郎[編集代表]/成美堂)

    をあげることができます。

    『現代英語学辞典』では、関係なく2つのレトリック用語が掲載されています。たしかに、「交差配語法」の説明と「倒置反復法」の説明は、ほとんど同じモノです。けれども、この2つのレトリック用語の違いを書いたり比べたりといったことはしていません。そのため、なにか違う用語なのか、それとも同じような用語なのか。もしくは、まったく同じ意味なのか。それはハッキリしません。

  • 深く知るd「語句のくり返し」と「構成のくり返し」とで分ける
  • 「語句のくり返し」であるか、それとも「構成のくり返し」であるかによって、区別しようとする考えかたもあります。つまり、
    「語句のくり返し」に対しては、「倒置反復法」とする
    「構成のくり返し」に対しては、「 交差配語法」とする

    というものです。これにしたがうと、「単語それ自体」のくり返しについては、「倒置反復法」とすることになります。しかし、それ以外の「単語の意味・単語の形」といたもののくり返しについては、「 交差配語法」という分類がされます。

    こういった説明については、
    『レトリック事典』

    のほうに、ややくわしく書かれています。

  • 深く知る2対照法との関係
  • この「倒置反復法」をはじめとする、コントラストをつくるレトリックについては、「 対照法・対句」にまとめられています。

    そちらもご参照ください。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 倒置反復・倒置反復法
  • 呼び方2
  • アンチメタボレー
  • 参考資料
  • ●『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • 辞典としては、かなり長く「倒置反復法」の説明が書いてあります。このページの「ネタ本」でもあります。